どのような場合に弁護士基準を超える慰謝料が認定される?

弁護士基準の慰謝料は、裁判所が慰謝料を算定する際の参考とするための基準であり、事案によっては、弁護士基準の慰謝料を超える慰謝料を算定するケースもあります。

この記事の監修者

弁護士 山田 洋斗

弁護士法人サリュ千葉事務所 所長弁護士
千葉県弁護士会所属
明治大学法科大学院卒業

【獲得した画期的判決】
・2021年8月 自保ジャーナル2091号114頁に掲載(交通事故事件)
・2022年 民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準上巻(赤い本)105頁に掲載
【交通事故解決件数】
1000件以上(2023年2月時点)

目次

弁護士基準を超える慰謝料が認定される場合とは?

弁護士基準の慰謝料を計算する際に参照される「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(いわゆる赤い本)によると、「加害者に故意もしくは重過失(無免許、ひき逃げ、酒酔い、著しいスピード違反、ことさらに信号無視、薬物等の影響により正常な運転ができない状態で運転等)または著しく不誠実な態度等がある場合」に基準以上の慰謝料が認定されることとなります。

弁護士基準を超える慰謝料を認定した千葉地裁の裁判例

千葉県の裁判所においても、慰謝料の増額が認定されたケースがあります。

たとえば、千葉県成田市で起きた交通事故で、加害者が飲酒により対向車線にはみ出して運転していた結果、被害者に対して脳挫傷、外傷性歯牙脱臼等の傷害を負わせた事案(千葉地裁佐倉支部平成18年9月27日判決)では、入院期間が約10か月(裁判基準だと306万円の慰謝料)であるところ、350万円の慰謝料が認定されました。

なお、この事案では、1級の後遺障害が認定されており、弁護士基準によると2800万円の後遺障害慰謝料となるところ、以下のように判断して後遺障害慰謝料においても増額を認めました。

被害者が「後遺障害等級1級3号に該当する後遺障害を負ったこと、その程度も、遷延性意識障害等により、寝たきりで、全介助・気管切開・胃ろうからの栄養補給を要する状態にあるなど、きわめて重篤なものであり、人生を奪われたに等しいこと、被告は、酒気帯びの状態で、制限速度を超える速度で自動車を走行させ、前方注視を怠った過失により、本件事故を惹起したものであり、その態様が悪質であるといえることなどに照らせば、後遺障害慰謝料としては、3,200万円とするのが相当である。」

このように、弁護士基準の慰謝料はあくまで目安であり、個別具体的な事情によっては増額されるケースもあります。

 

弁護士に頼んでも弁護士基準での示談が難しいケースも

残念ながら、弁護士に依頼しても、大きな増額が難しいケースもあります。私が経験した中でも、以下のような場合、慰謝料の増額が難しいと思われます。

・接骨院や整骨院の治療費が高額になり、治療の相当性・必要性が否定されうる場合

接骨院や整骨院の治療費は、それ自体「必要のない費用だったのでは?」と加害者側から主張され、争われるケースが多いです。接骨院や整骨院における治療は、被害者からすれば痛みが軽減され、有効だと感じることが多いのですが、非科学的な治療であることや、整形外科における医学的な治療と異なり根本的な治療とはいえないなどと保険会社側から主張され、必要性や相当性を否定されるケースが多くあります。

特に長期間にわたり、しかも多数回、接骨院や整骨院に通っていると、その治療費も高額になり、治療の必要性・相当性に疑義が生じます。この整骨院や接骨院の治療費を、相手方保険会社が既に支払っている場合、弁護士基準の慰謝料をそのまま回収できない場合があります。これは、治療費の損害項目としては過払いとなる可能性が出てくるからです。

仮に、保険会社が治療期間中に接骨院や整骨院の治療費を立て替えて支払っているとしても、訴訟では「賠償金の一部として支払ったのみで、必要な治療費として認めたわけではない。」などと主張して簡単にひっくり返してきます。

このように、訴訟になった場合に被害者側にとって弱点となる部分があると、示談交渉において弁護士に依頼して慰謝料の増額交渉をしても、増額ができない場合があります。

ただし、このように高額な接骨院や整骨院の治療費が生じていても、医師が接骨院や整骨院での治療を許諾、指示している場合や、接骨院や整骨院における治療が整形外科におけるリハビリテーションとほとんど変わらないような場合、上記のような弱点をフォローできる場合があります。

・あまりに長期の治療期間となっている場合

「慰謝料は、治療期間が長ければ長いほど高額になるのでは?」

そう思う方もいると思います。これは、正しくもあり、誤りでもあります。

たとえば、むちうち症等(頚椎捻挫、腰椎捻挫等)で3年間治療し、この治療費を保険会社がすべて立て替えて支払っていた場合、上記の接骨院や整骨院の治療費と同様、治療費の損害項目について過払いの状態になる場合があります。そうすると、慰謝料については増額が図れない場合があります。

むちうち症の場合、人によって異なりますが、治療期間としては3か月~6か月が妥当な治療期間といわれています。私の経験上、むち打ち症で8か月、9か月程度の治療期間だと交渉が苦しくなってくる印象があります。つまり、適切な時期で治療を中断しておくというのも、適切かつ早期に示談するためには必要になってくるということです。

・受傷自体に疑義がある場合

3つ目は「そもそもケガしているの?」と、受傷したこと自体に疑義がある場合です。

典型的なのは、事故によって損傷を受けた車両の写真をみると、擦り傷程度で修理は必要ないくらい軽微である場合です。

保険会社の担当者は事故そのものを目撃しているわけではないので、事故の大きさを把握する手段は車両の損傷写真等を確認することくらいです。その車両の損傷写真が「そもそもどこを損傷しているの?」というくらい軽微な事故のときがあります。

そのような事故で、被害者が何か月も治療をしてしまうケースがあります。実際には痛みがある以上、通院をすることは当然のことですが、軽微事故の場合には保険会社の担当者が受傷自体に疑いを持つことが少なくありません。

前記のとおり、保険会社が一旦は立て替えていたとしても、必ずしも受傷を認めたとはいえない場合があります。このような場合、被害者側が訴訟提起等の強気な態度に出ることはできず、慰謝料も増額が期待できないことが多くあります。

被害者が通院した期間分の慰謝料を認めなかった千葉地裁の事例

千葉県の裁判所でも、治療期間に相応する弁護士基準の慰謝料よりも低額な慰謝料を認定している例があります。

たとえば、千葉県千葉市で発生した交通事故(追突)で、被害者が頚椎捻挫を負ったと主張して約8か月通院し、130万円以上の慰謝料を請求した事案(千葉地裁平成28年1月15日判決)で、裁判所は、事故と因果関係のある治療期間を3か月半とし、傷害慰謝料として60万円を認定しました。被害者は実際には8か月以上通院したにもかかわらず、慰謝料は3か月半程度の治療期間を前提に算出されています。

このように、発生した交通事故に見合う治療期間ではない場合には、示談交渉においても慰謝料の増額が難しくなってくる場合があります。

弁護士法人サリュ千葉事務所では、弁護士に依頼した場合にどれくらいの慰謝料がもらえそうか、無料でお答えいたします。

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この記事の監修者

弁護士 山田洋斗
弁護士法人サリュ千葉事務所所長弁護士。2015年から2020年まで交通事故発生件数全国最多の愛知県において多くの交通事故案件を扱い、これまで1000件以上(2023年2月時点)の交通事故案件を解決に導いてきた。2020年6月から地元の千葉県において千葉事務所所長弁護士に就任。日々、千葉県で交通事故被害に悩んでいる被害者の救済に尽力している。

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