自転車の運転中に交通事故被害に遭った方へ。自転車事故の特徴と対処法を解説

近年、交通事故の当事者のどちらかが自転車であるケースが増加しています。

千葉県の死亡事故のデータでも、車対自転車の割合が12%と、自転車事故の割合は決して低くありません。

今回は、自転車乗車中に交通事故の被害に遭った方を対象として、自転車事故の特徴と対処法を解説します。

この記事の監修者

弁護士 山田 洋斗

弁護士法人サリュ千葉事務所 所長弁護士
千葉県弁護士会所属
明治大学法科大学院卒業

【獲得した画期的判決】
・2021年8月 自保ジャーナル2091号114頁に掲載(交通事故事件)
・2022年 民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準上巻(赤い本)105頁に掲載
【交通事故解決件数】
1000件以上(2023年2月時点)

目次

自転車事故の過失割合の特徴とは

自転車対自動車の交通事故の場合、自転車の方が怪我大きくなりやすいことから、基本的には自転車側の過失が小さくなることが多いです。

そのため、自転車で交通事故に遭った場合は、多くのケースで相手側に損害の賠償を求めることができます。

しかし、自転車側の過失が一切発生しないということは珍しく、自転車側にも一定の過失が生じてしまうケースも多くあります。

よくある自転車の不注意としては、以下のものがあります。

歩道を走行してしまう

街中ではよく歩道を走行している自転車を見かけますが、自転車は車両(道路交通法2条8項)であり、歩道通行可とされた歩道を除き、歩道を走行してはいけません(道路交通法17条1項)。そのため、歩道を走行中に交通事故に遭った場合、車道を走行していた場合よりも自転車側の過失が大きくなることがあります。

右側走行をしてしまう

自転車は、道路の左側端を通行しなければいけません(道路交通法18条)。自転車が右側走行をした結果、自動車側の発見が遅れて交通事故になってしまうことは、よくあります。

一時停止の標識を無視してしまう

一時停止の道路標識は、自転車を運転している人も、守らなければいけません。これを無視した結果、交通事故になってしまうケースが多くあります。

自転車事故の物損は、被害者が不利になる?

自転車対自動車の事故の場合、被害者側にも一定の過失が発生することがあるため、特に物損処理においては、自転車側が不利になるケースが往々にしてあります。

例えば、自転車:自動車の過失割合が1:9というケースで、自転車の損害が1万円、自動車側の損害が20万円となった場合、自転車の持ち主は自動車の運転手に9000円の賠償請求をすることができます。

しかし、自転車の運転者は、自動車側の損害の1割を負担しなければならないため、2万円を自動車の持ち主に支払わなければいけません。

そうすると、自動車側が自転車側に支払うお金(9000円)と、自転車側が自動車側に支払うお金(2万円)を相殺し、自転車側が自動車側に対して相殺後の残り(1万1000円)を支払うことになります。

つまり、自転車の運転者は、被害者であるにもかかわらず、自動車の持ち主にお金を支払うという状況になります。

このような処理は、過失割合が少しでも発生する場合、交通事故の賠償手続きではよくあることです。

自転車事故の物損で損をしない方法

自転車側の過失割合が少ないにもかかわらず、自動車側の損害を賠償せざるを得ない状況となった場合、自転車の運転者としては、以下の3つの方法を自動車側の保険会社担当者に提案してみましょう。

片賠(カタバイ)

片賠とは、交通事故の賠償実務で使用される用語で、「片方のみ賠償責任を負い、もう一方は他方の損害の賠償義務を負わない」というものです。

これは、例えば交通事故の態様からして自転車側にも1割の過失が生じてしまうケースでも、自転車側は自動車側の1割の損害を負担せずに済む、というもので、賠償実務では0:9ということもあります。0はどこ行っちゃった?と思うかもしれませんが、これはつまり、「自転車側は他方自動車の損害賠償義務を負わず、自動車側のみ、自転車の賠償をしましょう。」という合意で、自動車側は1割の賠償請求を放棄するということになります。

自動車側も円満解決を望む場合が多いこと、自動車側は車両保険や対物賠償責任保険を使用せざるをえないケースが多いため、車両損害の1割の回収にこだわらない人が多いことなどから、片賠の提案に応じてくれるケースはそれなりにあります。

被害者側の自転車が無過失を主張して争う場合は別として、この提案で保険会社側が受諾してくれるのであれば、自転車側としては、いい合意内容ということになります。

自損自弁

次にありうる選択肢としては、自損自弁です。自損自弁とは、こちらも交通事故の賠償実務で使用される用語で、「それぞれ自分に発生した損害は、自分で負担して相手方には相互に請求しないで終わりましょう」というものです。

自動車側の損害が大きく、過失割合にしたがって厳密にそれぞれの賠償額を算出すると、被害者である自転車側が不利になる場合には、保険会社に自損自弁を提案するのも有効です。

自転車に付帯されている対物賠償責任保険を使用する

自動車側の損害が大きく、自転車に1割でも過失が生じるようなケースで、相手方保険会社が片賠や自損自弁を受け入れない場合は、自ら契約している対物賠償責任保険や個人賠償責任保険を使用することも検討しましょう。自転車に付帯されている賠償責任保険は、使用しても保険料が増加しないケースが多く、使用によるデメリットはありません(個々の保険契約によりますので、保険会社に使用によるデメリットを確認しましょう)。

携行品損害(携帯電話、バッグ、時計など)の賠償も忘れずに請求しましょう

自転車の賠償のほか、自転車事故では携行品損害の賠償もしっかりと受けましょう。例えば、携帯電話、時計、バッグ、衣服、靴など、事故によって損傷したのであれば、賠償の対象になります。

通常は、物の名称、メーカー、購入日、購入金額などを記載した損害品明細書を作成し、損害状況のわかる写真などを添付して保険会社宛に送ります。損害品明細書のひな型は、保険会社に送ってもらうことが一般的です。

自転車事故のケガの特徴とは?

自転車に乗っている際の交通事故は、自動車とは異なり、大怪我につながることが多いです。自転車事故でよく生じる怪我には以下のようなものがあります。

・橈骨遠位端骨折

橈骨遠位端骨折は、手首付近の骨折です。自転車から転倒した際に手をついてしまった結果、体重を支えきれずに負傷してしまうケースが典型です。高齢者の方に多く生じます。

・腰椎圧迫骨折

こちらも転倒により、脊柱が上下左右に過伸展することで、生じる怪我です。脊柱が脆弱化している高齢者に生じやすい怪我です。

脊柱の圧迫骨折については以下のページで詳細を解説していますので、ぜひご覧ください。

交通事故で脊柱の圧迫骨折となった方へ。しっかり補償してもらうために知っておくべきこと

・膝関節の靭帯損傷

自動車が自転車を運転している人の下肢に直接衝突し、膝付近を負傷することは多くあります。半月板損傷、前十字靭帯損傷、後十字靭帯損傷など、膝関節付近の怪我となりやすく、後遺障害が残ってしまうケースも多くあります。

・肩鎖関節脱臼

こちらも、転倒して肩付近を強く地面に打ち付けることで生じる怪我です。肩鎖関節は、一度変形してしまうと手術をしない限り元には戻りません。

・顔面醜状、歯牙欠損

道路に顔面などを打ち付けることで、顔に傷跡が残ってしまうケースや歯が欠けてしまうケースもあります。

自転車同士の事故だと、自賠責保険が使えない?

補償が不十分となってしまうケースも

自転車の運転者が自動車にぶつけられて負傷した場合は、自動車側の自賠責保険を使用することで、自転車の運転者は最低限の補償を受けることが可能です。しかし、もし自転車同士の事故で、相手方側が賠償責任保険を契約していなかった場合、十分な補償を受けられるかどうかは相手方の資力によって左右されます。もし、資力のない相手方だった場合は、最悪、自己負担になってしまうケースもあります。

その場合は、自ら契約している傷害保険や、自動車に付帯している人身傷害保険などを使用することも検討しましょう。

後遺障害認定を受けられない?

自動車が絡む交通事故で負傷し、後遺症が残った場合、被害者は自賠責保険の損害調査事務所による公正中立な調査により、後遺障害認定を受けることができます。自賠責保険から後遺障害の認定を受けることができれば、被害者は認定された等級を前提に加害者側保険会社に対して後遺障害部分を含む賠償金を請求できます。

しかし、自転車同士の事故の場合、加害者側に保険会社が付いていたとしても、自動車事故を前提とする自賠責保険は使えません。そのため、被害者に後遺症が残った場合、公正中立の立場で後遺障害を認定する機関が存在しない状況になります。

このとき、加害者側保険会社が、妥当な後遺障害等級をすんなり出してくれればあまり問題は生じませんが、損害賠償金を支払う側としては、支払う賠償金を少なくしたいでしょうから、後遺障害の存在自体否定したり、不当な等級を認定したりすることは多くあります。このように、自転車同士の事故の場合、多くのケースで加害者側保険会社と後遺障害の残存、等級について意見の相違が生じます。

一般の方が後遺障害の有無や、妥当な等級について賠償交渉のプロである保険会社担当者と対峙することは多くの困難を伴います。そのため、自転車事故で後遺障害が残存した場合、自賠責保険の後遺障害認定の相場を把握している弁護士などに相談することが有益でしょう。

なお、一部の保険会社は、自賠責保険の後遺障害認定システムを利用できることもあり、その場合は上記のような問題は生じにくいです。

子供が自転車乗車中に交通事故に遭ったら親が責任を負う?

例えば、子供が自転車に乗っている際、他の子供に怪我をさせてしまった場合、怪我をさせた子供の親は賠償責任を負うでしょうか。

子供の年齢、成長度合いによりますが、一定の場合には親が法的な責任を負うケースがあります。

概ね子供が12歳未満の場合、子供には賠償責任を負えるだけの責任能力がないとされ、代わりに親が監督義務者として法的な責任を負う場合があります。他方で、12歳以上の場合には、子供が単独で賠償責任を負いますから、親は特段の事情のない限り賠償責任を負いません。

子供が加害者となり、重大な損害を生じさせてしまった場合には、被害者だけでなく、加害者側の親も子も、大変な思いをすることになります。

このような経緯から、近年、自転車にも自動車と同様に、強制保険として、個人賠償責任保険等をつけるように義務付ける自治体が増えてきました。

千葉県の自転車保険の加入義務について

千葉県においても、近年、交通事故の当事者のどちらかが自転車であるというケースが増加しています。千葉県の死亡事故のデータでは、車対自転車の割合が12%と、決して低くない割合で発生しています。

また、自転車を運転する側が、加害者となっているケースも頻発しています。しかし、賠償義務者側の資力が乏しく、被害者の損害が十分に補填されないケースが多く、被害者の救済が問題とされていました。そこで、近年、全国の都道府県で、自転車の運転者に自転車賠償責任保険の加入が義務付けられる傾向にあります。

千葉県も、千葉県自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例(平成294月施行)の15条に、

「自転車利用者(児童等である場合にあっては、その保護者)は、自転車損害賠償保険等への加入の有無を確認するよう努め、加入していないときは、自転車損害賠償保険等への加入に努めなければならない。」

「自転車貸付業者又は自転車を事業の用に供する事業者は、その事業活動に係る自転車損害賠償保険等への加入に努めなければならない。」

と規定しています。

しかし、この規定は自動車における自賠責保険とは異なり、あくまで努力義務であり、賠償責任保険に加入していなかったとしても、罰則があるわけではなく、強制力の乏しい規定といえます。

実際、千葉県内の主要な市町村では、自転車賠償責任保険の加入について県の条例を踏襲するのみで、独自に加入義務を定めてはいません。

千葉市は、「千葉市自転車を活用したまちづくり条例」を令和3年4月1日に施行し、他の市町村に先駆けて、自転車の賠償責任保険の加入を義務づけました。

このような市町村の流れを汲み、自転車の賠償責任保険への加入義務を定めた千葉県条例改正案が千葉県議会に提出され、2021年12月時点で本格的な審議がおこなわれています。

まとめ

いかがでしょうか。

もし、自転車乗車中に交通事故被害に遭遇した場合には、その後の交渉において、過失割合や後遺障害など、かなり専門的な知見が必要とされます。そのため、早期に交通事故を多く扱っている弁護士に相談することをおすすめします。

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この記事の監修者

弁護士 山田洋斗
弁護士法人サリュ千葉事務所所長弁護士。2015年から2020年まで交通事故発生件数全国最多の愛知県において多くの交通事故案件を扱い、これまで1000件以上(2023年2月時点)の交通事故案件を解決に導いてきた。2020年6月から地元の千葉県において千葉事務所所長弁護士に就任。日々、千葉県で交通事故被害に悩んでいる被害者の救済に尽力している。

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