今回は、後遺障害逸失利益について解説します。
交通事故の被害者の中には後遺障害逸失利益という言葉を聞いたことがある方もいるかもしれません。この後遺障害逸失利益の計算方法や実際の裁判所の扱いを知っておくと、示談交渉を有利に進めることが可能になるかもしれません。
後遺障害逸失利益とは
後遺障害逸失利益とは、交通事故の被害に遭って何らかの後遺障害が残った場合に、その後遺障害が被害者の就労に影響を与えている場合に、その影響を与えている部分を金銭換算した賠償項目の一つです。
「逸失利益」(イッシツリエキ)と記載されているように、「本来事故に遭わなければ得られたであろう利益」のことをさします。
後遺障害逸失利益の賠償を受けるための条件とは
・後遺障害認定を受けること
後遺障害逸失利益を受け取るためには、まず何らかの後遺障害が認定されなければいけません。
後遺障害は、自賠法別表2に記載されており、以下のように分類されています。
別表1
別表1第1級
1 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
2 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
別表1第2級
1 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
2 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
別表2
1級
1 両眼が失明したもの |
2 咀嚼及び言語の機能を廃したもの |
3 両上肢をひじ関節以上で失ったもの |
4 両上肢の用を全廃したもの |
5 両下肢をひざ関節以上で失ったもの |
6 両下肢の用を全廃したもの |
2級
1 1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの |
2 両眼の視力が0.02以下になったもの |
3 両上肢を手関節以上で失ったもの |
4 両下肢を足関節以上で失ったもの |
3級
1 1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの |
2 咀嚼又は言語の機能を廃したもの |
3 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
4 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
5 両手の手指の全部を失ったもの |
4級
1 両眼の視力が0.06以下になったもの |
2 咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの |
3 両耳の聴力を全く失ったもの |
4 1上肢のひじ関節以上を失ったもの |
5 1下肢をひざ関節以上で失ったもの |
6 両手の手指の全部の用を廃したもの |
7 両足をリスフラン関節以上で失ったもの |
5級
1 1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの |
2 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
3 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
4 1上肢を手関節以上で失ったもの |
5 1下肢を足関節以上で失ったもの |
6 1上肢の用を全廃したもの |
7 1下肢の用を全廃したもの |
8 両足の足指の全部を失ったもの |
6級
1 両眼の視力が0.1以下になったもの |
2 咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの |
3 両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの |
4 1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの |
5 脊柱に著しい変形又は運動機能を残すもの |
6 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの |
7 1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの |
8 1手の5の手指又はおや指を含み4の手指を失ったもの |
7級
1 1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの |
2 両耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの |
3 1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの |
4 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
5 胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
6 1手のおや指を含み3の手指を失ったもの又はおや指以外の4の手指を失ったもの |
7 1手の5の手指又はおや指を含み4の手指の用を廃したもの |
8 1足をリスフラン関節以上で失ったもの |
9 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
10 1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
11 両足の足指の全部の用を廃したもの |
12 外貌に著しい醜状を残すもの |
13 両側の睾丸を失ったもの |
8級
1 1眼が失明し、又は1眼の視力が0.02以下になったもの |
2 脊柱に運動障害を残すもの |
3 1手のおや指を含み2の手指を失ったもの又はおや指以外の3の手指を失ったもの |
4 1手のおや指を含み3の手指の用を廃したもの又はおや指以外の4の手指の用を廃したもの |
5 1下肢を5センチメートル以上短縮したもの |
6 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
7 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
8 1上肢に偽関節を残すもの |
9 1下肢に偽関節を残すもの |
10 1足の足指の全部を失ったもの |
9級
1 両眼の視力が0.6以下になったもの |
2 1眼の視力が0.06以下になったもの |
3 両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの |
4 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの |
5 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの |
6 咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの |
7 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの |
8 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの |
9 1耳の聴力を全く失ったもの |
10 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
11 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
12 1手のおや指又はおや指以外の2の手指を失ったもの |
13 1手のおや指を含み2の手指の用を廃したもの又はおや指以外の3の手指の用を廃したもの |
14 1足の第1の足指を含み2以上の足指を失ったもの |
15 1足の足指の全部の用を廃したもの |
16 外貌に相当程度の醜状を残すもの |
17 生殖器に著しい障害を残すもの |
10級
1 1眼の視力が0.1以下になったもの |
2 正面を見た場合に複視の症状を残すもの |
3 咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの |
4 14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
5 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの |
6 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの |
7 1手のおや指又はおや指以外の2の手指の用を廃したもの |
8 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの |
9 1足の第1の足指又は他の4の足指を失ったもの |
10 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
11 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
11級
1 両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの |
2 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの |
3 1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの |
4 10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
5 両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの |
6 1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの |
7 脊柱に変形を残すもの |
8 1手のひとさし指、なか指又はくすり指を失ったもの |
9 1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの |
10 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
12級
1 1眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの |
2 1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの |
3 7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
4 1耳の耳殻の大部分を欠損したもの |
5 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの |
6 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
7 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
8 長管骨に変形を残すもの |
9 1手のこ指を失ったもの |
10 1手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの |
11 1足の第2の足指を失ったもの、第2の足指を含み2の足指を失ったもの又は第3の足指以下の3の足指を失ったもの |
12 1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの |
13 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14 外貌に就業を残すもの |
13級
1 1眼の視力が0.6以下になったもの |
2 正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの |
3 1眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの |
4 両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの |
5 5歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
6 1手のこ指の用を廃したもの |
7 1手のおや指の指骨の一部を失ったもの |
8 1下肢を1センチメートル以上短縮したもの |
9 1足の第3の足指以下の1又は2の足指を失ったもの |
10 1足の第2の足指の用を廃したもの、第2の足指を含み2の足指の用を廃したもの又は第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの |
11 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの |
14級
1 1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの |
2 3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
3 1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの |
4 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの |
5 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの |
6 1手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの |
7 1手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈曲することができなくなったもの |
8 1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの |
9 局部に神経症状を残すもの |
・就労に影響が生じること
次に、後遺障害が認定されたとして、その後遺障害が就労に影響を与えている必要があります。
例えば、顔面にキズ跡などが残ってしまう醜状障害は、自賠責では9級や12級といった認定を受けることができますが、顔にキズ跡が残っていても仕事に何ら影響を与えないというケースは往々にしてあります。工事現場の作業員やトラック運転手、デスクワークがメインのサラリーマンも、顔のキズ跡が原因で減収が生じるということは、あまりないでしょう。
他方で、モデルや営業マン、アパレル店員といった外見が重視されるような仕事の場合、就労への影響は一定程度あるといえるでしょう。
このように、後遺障害逸失利益の賠償を受けるためには、後遺障害が就労に影響を与えることが必要になります。
後遺障害逸失利益の算定方法とは?
計算方法
後遺障害逸失利益は、上記のとおり、就労への影響を金銭換算したものです。そのため、以下のような計算式で算出します。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準
すなわち、収入の高い人や、重い後遺障害が残り労働能力が著しく減少した場合、若い方など将来の就労年数が長い人ほど後遺障害逸失利益は高くなります。
基礎収入
では、基礎収入はどのように算出するのでしょうか。基本的には、事故前年の収入をベースにしますが、将来収入が上がる可能性のある方は、それを立証することで一定程度上がった状態のものを基礎収入にできる場合もあります。
職種により異なりますが、概ね以下のように算定していきます。
会社員
会社員の場合、多くの方が会社から源泉徴収票などの交付を受けていると思われます。この源泉徴収票に記載の各金額のうち、税金などが控除される前の「支払金額」の数字を基礎収入とします。なお、若年者(事故当時概ね30歳未満)の方の場合、将来、収入が増額する可能性が高いといえるため、賃金センサス(平均賃金)を基礎収入とします。
自営業
自営業者の方の場合、基本的には確定申告書に記載の所得を基礎収入とします。なお、専従者控除や青色申告控除は、税制上の優遇に過ぎないため、被害者の労働能力を評価する際は考慮しません。そのため、基本的には専従者控除前の所得や、青色申告控除前の所得を基礎収入とします。
会社役員
会社役員の場合、基本的には役員報酬額を基礎収入としますが、会社役員の役員報酬には利益配当部分も含まれている場合があり、支払われた役員報酬のすべてを基礎収入とすることについて、争いが生じる場合もあります。そのため、実質的に労務と対価関係にある部分を算出し、その部分を基礎収入とすることがあります。役員報酬額が同年代の平均賃金と遜色ない金額であるなどの場合は、役員報酬額をそのまま基礎収入とするケースが多いと思われます。
学生
学生の場合、将来、具体的にどの程度の収入を得るのか不明であるため、賃金センサス学歴計男女別全年齢平均の賃金を基礎収入とすることが一般的です。もっとも、事故時点で大学生であれば大卒の平均賃金となりますし、高校生であっても大学進学の蓋然性があれば大卒の平均賃金を基礎収入とすることもあります。
主婦、兼業主婦
主婦業などの家事労働は、現在の交通事故賠償実務では平均賃金程度の経済的価値があると考えられています。そのため、主婦は女性労働者の賃金センサス全年齢平均賃金を基礎収入とします。なお、兼業主婦の場合、実収入と平均賃金を比較し、高い方を基礎収入とします。
高齢者
高齢者の場合、定年退職をして年金暮らしの方が多く、年金は事故後の後遺障害によって減額することはありませんから、そもそも後遺障害逸失利益が発生していないと判断されます。もっとも、家事労働は高齢者であっても継続しておこなっている方が多いため、主婦を前提に逸失利益を算定する場合はあります。
労働能力喪失率
労働能力の低下の程度は、労働省労働基準局長通牒(昭和32年7月2日基発第551号)別表労働能力喪失率表(以下の表)を前提とします。裁判所の判断も、基本的には以下の表のとおりに労働能力喪失率を算定します。
もっとも、被害者の職種や症状、就労への具体的影響を考慮して修正されるべき場合はありますので、個別具体的に検討をすべきでしょう。
別表1 | |
1級 | 100% |
2級 | 100% |
別表2 | |
1級 | 100% |
2級 | 100% |
3級 | 100% |
4級 | 92% |
5級 | 79% |
6級 | 67% |
7級 | 56% |
8級 | 45% |
9級 | 35% |
10級 | 27% |
11級 | 20% |
12級 | 14% |
13級 | 9% |
14級 | 5% |
もっとも、例えば醜状障害や変形障害など、後遺障害によっては、喪失率表とおりに認定されないケースもあります。この点は、別の機会で解説いたします。
労働能力喪失期間
労働能力喪失期間とは、その名の通り、労働能力を失っている期間のことをさします。後遺障害逸失利益は、将来の就労への影響を金銭換算したものですから、症状固定時の年齢から就労が可能と思われる年齢までの期間を計算の対象とします。
そして、一般的に就労可能年数は67歳までとされていますので、原則として67歳までの期間を労働能力喪失期間とします。
例えば、症状固定時40歳であれば、27年が労働能力喪失期間となります。
もっとも、症状固定時の年齢が67歳を超える方の場合は平均余命(簡易生命表)の2分の1の期間を労働能力喪失期間とします。また、症状固定時から67歳までの年数が簡易生命表の平均余命の2分の1の期間より短くなってしまう場合も、平均余命の2分の1を労働能力喪失期間とします。
ただし、労働能力喪失期間は、そのまま基礎収入や労働能力喪失率に乗じることはしません。なぜなら、本来は20年以上先にもらうはずの収入の一部を現時点でもらうことになるため、その分の運用利益を控除しないと、被害者が逆に得をしてしまうことになるからです。
そこで、労働能力喪失期間に対応したライプニッツ係数と呼ばれる数字を乗じます。ライプニッツ係数は、運用利益分を控除した後の数字で、以下の表(1年~20年のみ)のように算出されます(令和2年4月1日以降に発生した事故の表です。これ以前の事故の場合、若干少ない数字になります)。
※左側の数字が労働能力喪失期間、右側が労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
1 | 0.9709 |
2 | 1.9135 |
3 | 2.8286 |
4 | 3.7171 |
5 | 4.5797 |
6 | 5.4172 |
7 | 6.2303 |
8 | 7.0197 |
9 | 7.7861 |
10 | 8.5302 |
11 | 9.2526 |
12 | 9.954 |
13 | 10.635 |
14 | 11.2961 |
15 | 11.9379 |
16 | 12.5611 |
17 | 13.1661 |
18 | 13.7535 |
19 | 14.3238 |
20 | 14.8775 |
計算例
たとえば、症状固定時47歳の会社員(事故前年度の年収600万円)が10級(労働能力喪失率27%)の後遺障害の認定を受けた場合、後遺障害逸失利益は以下のように算定されます。
600万円×27%×20年の労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数14.8775=24,101,550円
まとめ
いかがでしょうか。後遺障害逸失利益は、複雑な計算が行われ、争点も多岐にわたります。かなり専門的な知識が必要な計算にはなるため、自分の後遺障害逸失利益がいくらなのか気になった方は、交通事故を多く扱う弁護士に相談することをおすすめいたします。
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