車の修理費用が認められない?経済的全損とは

車に乗っている際に交通事故に遭うと、まず処理しなければいけないのが車両損害です。

自分の愛車を傷つけられたことに怒りを覚えることはもちろんですが、保険会社の対応も思い通りにいかないことが多く、被害者はストレスを溜めるのがこの物損処理の問題です。

特に、車両が全損扱いになると、修理費用の賠償が認められず、納得できない賠償になってしまうことがあります。

今回は、車の修理費用が認められない場合、すなわち全損扱いとなる場合や被害者側の適切な対応を解説します。

この記事の監修者

弁護士 山田 洋斗

弁護士法人サリュ千葉事務所 所長弁護士
千葉県弁護士会所属
明治大学法科大学院卒業

【獲得した画期的判決】
・2021年8月 自保ジャーナル2091号114頁に掲載(交通事故事件)
・2022年 民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準上巻(赤い本)105頁に掲載
【交通事故解決件数】
1000件以上(2023年2月時点)

目次

車を傷つけられたのに修理費用が認められない?なぜ?

交通事故で車両を傷つけられれば、被害者は当然「元通りにしてほしい」、つまり、修理費用を支払ってほしいと思うはずです。損害賠償では、原則として原状回復が求められますから、この被害者の思いは賠償金に反映されるべきでしょう。

しかし、実際の損害賠償手続きでは修理費用が認められないケースがあります。

それは、事故当時の車両時価額が低いケースです。

車両は通常、長期間使用していれば、徐々に価値が下がっていきます。

走行距離や年式によっては、ほとんど価値のない車両もあります。

価値の低い車両が交通事故に遭うと、事故当時の車両時価額よりも修理費用の方が高くなってしまうケースがあります。これを経済的全損といいます(正確には(車両時価額+買い替え諸費用)と修理費用を比較します)。

すると、保険会社としては次のように考えます。

「修理費用を払うより、市場から同種同等の車両を買った方が安く済むのでは?」

このように、市場から同種同等の車両を調達した場合の費用が修理した場合の費用よりも安いのであれば、加害者に同種同等の車両を調達できる程度の賠償をさせれば十分ということになります。

残念ながら、裁判所も同様に考えます。

被害者の中には「それでは新しい車は買えないのでは?」と考える方もいます。

しかし、損害の公平な分担を前提にする法律の考え方からすると、加害者に過大な賠償義務を負担させるわけにもいかないのが現実です。

そのため、経済的全損となる場合、車両時価額に買替諸費用を加えた金額の賠償となり、修理費用の賠償は認められないことになります。

なお、当法人の弁護士が交通事故の物損処理について、わかりやすく動画で説明しておりますので、こちらもご覧ください。

全損の場合に請求できる賠償項目とは?

車両時価額

全損となる場合には、車両時価額の賠償になりますが、適正な「車両時価額がいくらなのか」については、別途、慎重な検討が必要になります。

裁判所では、基本的に同一の車種、年代、型、同程度の使用状態、走行距離等の自動車を中古車市場において取得するに要する価格を時価額と考えます。

他方で、保険会社は、『オートガイド自動車価格月報』(通称「レッドブック」)から車種や年式等を特定し、時価額を算定することが多いです。この算定方法は、一般的には合理的といえますが、実際の中古車市場よりも低い金額となる場合もあります。

たとえば中古車情報を集めたインターネット上の情報から車種、登録年数、走行距離などから同種同等の車両の平均価格を算出すると、レッドブックで算出された時価額よりも高い場合があり、その場合は、被害者としては高い方の金額を請求することができます。

被害者としては、全損になって修理費用が認められないときも、適切な車両時価額について自ら調査し、保険会社に請求する方がいい場合もあります。

買い替え諸費用

また、仮に車両を買い替える場合、車両の本体価格とは別に、登録関係費用、税金等の出費が必要になるでしょう。これは、交通事故に遭って車両を買い替えることにならなければ、出費しないわけですから、賠償の対象として被害者は保険会社に請求できます。

裁判所が認定した買い替え諸費用には以下のものがあります。

・検査・登録・届出費用、登録手続代行費用

・車庫証明費用、車庫証明手続代行費用

・廃車費用、

・納車手数料

・車両本体価格に対する消費税

・自動車取得税

・リサイクル預託金

代車費用

さらに、全損となった場合でも代車費用を請求できる場合があります。

生活のために日常的に車両を使っており、被害者が代わりになる車両を保有していないなど、代車の必要性が認められる場合には、車両を買い替えるのに相当な期間中は代車費用が認められます。

車両を買い替えるのに必要な期間は、概ね2週間から1か月程度です。

全損でも修理費用を請求できる場合がある?

再取得が著しく困難な場合等

例外的に、経済的全損となった場合でも修理費用の賠償が認められる場合があります。

東京高等裁判所の事例では「被害車両と同種、同等の自動車を取得することが至難であり、代物を取得するに足りる価格を超える高額の修理費用を投じても被害車両を修理してこれを引き続き使用したいと希望することが社会観念上是認するに足りる相当な事由がある」場合には修理費用の賠償が認められる余地があると判断したものがあります。

しかし、これが認められることはかなり少なく、単に愛着のある車である程度では修理費用の賠償は認められないでしょう。市場からの再取得が困難であることを証明していくことも、難しいと考えられます。

相手方に対物超過特約がある場合

稀に、加害者が対物賠償責任保険とは別に対物超過特約という保険を契約している場合があります。

この保険は、経済的全損となる場合でも修理費用の賠償が認められる保険です。加害者側がたまたま契約しており、使用を承諾してくれた場合には、修理費用の賠償が認められる可能性があります。

どうしても修理費用の賠償を希望するのであれば、一度加害者側の保険会社に対物超過特約があるのかどうか、確認するとよいでしょう。

まとめ

いかがでしょうか。物損の処理は交通事故後におこなう初めての保険会社との交渉です。そのため、相手方保険会社に対して不信感を抱きやすい問題です。

物損の示談は、人身損害の場合に比べて弁護士による増額幅は限られてはいますが、物損処理においても弁護士が交渉に入ることで内容が変わる場合も多くあります。

相手方保険会社の物損処理に疑問を感じたら、専門知識豊富な交通事故に強い弁護士に相談してみることをおすすめします。

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この記事の監修者

弁護士 山田洋斗
弁護士法人サリュ千葉事務所所長弁護士。2015年から2020年まで交通事故発生件数全国最多の愛知県において多くの交通事故案件を扱い、これまで1000件以上(2023年2月時点)の交通事故案件を解決に導いてきた。2020年6月から地元の千葉県において千葉事務所所長弁護士に就任。日々、千葉県で交通事故被害に悩んでいる被害者の救済に尽力している。

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