交通事故で脊椎の圧迫骨折となった方へ。しっかり補償してもらうために知っておくべきこと

交通事故では、脊椎圧迫骨折は頻発する怪我の一つです。特に中高年や高齢者の被害者が診断されることが多く、交通事故を多く扱う弁護士であれば頻繁に接する傷病です。交通事故において脊椎圧迫骨折となった場合、これから説明することを知っておかないと、もらえる賠償金が著しく下がり、大きな損をすることになります。

ぜひご一読ください。

この記事の監修者

弁護士 山田 洋斗

弁護士法人サリュ千葉事務所 所長弁護士
千葉県弁護士会所属
明治大学法科大学院卒業

【獲得した画期的判決】
・2021年8月 自保ジャーナル2091号114頁に掲載(交通事故事件)
・2022年 民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準上巻(赤い本)105頁に掲載
【交通事故解決件数】
1000件以上(2023年2月時点)

目次

脊椎圧迫骨折とは

脊椎圧迫骨折とは、脊椎全体に上下方向の力が加わることで椎体が潰れてしまう骨折のことで、中高年から高齢者に頻発する骨折です。頚椎、胸椎、腰椎のいずれの部位にも生じる骨折ですが、交通事故では第一腰椎に発生することが多いです。以下では単に「圧迫骨折」といいます。

圧迫骨折は交通事故では、追突事故や自転車から転倒した際に腰を強くぶつけた時などに生じ、骨折部位の疼痛、痺れなどの神経症状が出てきます。胸椎圧迫骨折の場合は、呼吸のしにくさなども出ます。

賠償手続きにおいて有用な検査は?

圧迫骨折として適切な賠償を受けるためには、まずは医師から外傷性の圧迫骨折であると診断される必要があります。というのは、実はこの圧迫骨折は高齢者の方であればかなりの方が自然と発病しているからです。私たちはよく、背中の曲がったおじいちゃんやおばあちゃんを街で見かけると思いますが、これは、まさに圧迫骨折となっている状態です。「いつの間にか骨折」と言われたりもします。

受傷当初行われることが多いレントゲン検査では、骨折している事実はわかっても、新鮮な骨折、すなわち外傷性の骨折であることはわからないことが多く、医師は外傷性の圧迫骨折との診断ができません。

そこで、受傷後早期にMRIの撮影をすることが有用です。

※MRI(Magnetic Resonance Imaging)とは磁気共鳴画像のことをいい、強い磁石と電波を使って体内の状態を画像として描写する検査です。レントゲンなどと異なり、放射線による被ばくはなく造影剤も不要です。体内の断面をあらゆる方向(縦、横、斜め)から明らかにすることができます。これにより、レントゲンやCTではわからない体の異常がわかります。検査時間は20分~1時間で、医的侵襲を伴わない安全な検査であり、多くの整形外科で設置されています。

また、画像は経時的に撮影することが重要です。外傷性の圧迫骨折の場合、受傷後数ヶ月の間に圧潰が進行する可能性があります。そのため、受傷当初の圧潰の程度が時間の経過により進んでいる場合には、外傷性の圧迫骨折と判断されやすくなります。

MRIの有用性についは、「交通事故の賠償におけるMRI画像の有効性・重要性とは?」の記事で詳細を説明していますのでこちらもご覧ください。

脊椎圧迫骨折となった場合に後遺障害は認定される?

圧迫骨折となっても、治療により骨折部位が癒合し、圧潰の進行が止まることが一般的です

それに伴い、疼痛などの症状も緩和・消失することがあります。

事故後、一生懸命リハビリに励んだことで、痛みが消失したのはとても良いことですが、治療終了後に保険会社から「完治したのですね、では示談しましょう。」と言われ、示談をしてしまうケースが後を絶ちません。

痛みがないからといって、後遺障害の申請せずに示談をしてしまうことは、大きな損となるので注意が必要です。「痛くないのに後遺障害申請をしても認定されるの?」と、疑問に思う方もいらっしゃいますが、痛みの症状がなかったとしても後遺障害が認定される可能性は十分にあります。

ここが圧迫骨折の他の後遺障害とは異なる特徴です。脊柱の圧迫骨折により一度椎体が潰れると、その椎体を元に戻すことは困難であり、脊柱全体の支持機能は低下したままです。今は痛みなどがなかったとしても、将来、年齢を重ねるにつれて一度骨折した部位の椎体が脆弱化し、疼痛が再発する可能性も否定できません。

そのため、自賠責保険における後遺障害認定では、痛みや可動域制限などのほか、「変形障害」という後遺障害等級を用意しており、交通事故により圧迫骨折となったことが明らかであれば、それだけで(痛みが残存していなくても)11級という比較的重い等級が認定されることになります。

痛みがないからといって、保険会社から示談を求められても示談書を交わしてはいけません。私が扱った事例の中でも、事故により脊柱の圧迫骨折と診断された後、治療により痛みがなくなったため保険会社から示談を求められている方がおり、必死に示談をしないよう説得し、後遺障害申請をして無事に11級が認定されたケースがありました。

どのような等級が認定される?

では、圧迫骨折となった場合、自賠責保険ではどのような後遺障害が認定されるでしょうか。

圧迫骨折の場合、後遺障害は以下のように11級、8級、6級の該当可能性があります。

なお、圧迫骨折より酷い脊柱の破裂骨折となった場合には、脊髄損傷が併発している可能性が高く、その場合には脊髄損傷を含めて総合評価されることになります。

障害内容要件労働能力喪失率
11級7号脊柱に変形を残すものア:脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがX線写真等により確認できるもの
イ:脊椎固定術が行われたもの(移植した骨がいずれかの脊椎に吸収されたものを除く。)
ウ:3個以上の脊椎ついて、椎弓7切除術等の椎弓形成術を受けたもの
20%
8級相当脊柱に中程度の変形を残すものア:脊椎圧迫骨折等により、1個以上の椎体の前方椎体高が減少し、後彎が生じているもの
イ:コブ法による側彎度が50度以上であるもの
ウ:環椎又は軸椎の変形・固定(環椎と軸椎との固定術が行われた場合を含む)により、次のa、b、cのいずれかに該当するもの。このうち、abにおいては、軸椎以下の脊柱を可動させずに(当該被災者にとって自然な肢位で)回旋位または屈曲・伸展位の角度を測定すること。
 a 60度以上の回旋位となっているもの
 b 50度以上の屈曲位又は60度以上の伸展位となっているもの
 c 側屈位となっており、X線写真等により矯正位の頭蓋底の両端を結んだ線と軸椎下面との平行線が交わる角度が30度以上の斜位となっていることが確認できるもの
45%
6級5号脊柱に著しい変形を残すものX線等により、脊椎圧迫骨折等をかくにんすることができる場合であって、次のいずれかに該当するもの
ア:脊椎圧迫骨折等により2個以上の椎体の前方椎体高が著しく減少し、後彎が生じてるもの。この場合、「前方椎体高が著しく減少した場合」とは、減少した全ての椎体の後方椎体高の合計と減少後の前方椎体高の合計との差が、減少した椎体椎体の後方椎体高の1個当たりの高さ以上であるものをいう。
イ:脊椎圧迫骨折等により、1個以上の椎体の前方椎体高が減少し、後彎が生ずるともに、コブ法による側彎度が50度以上となっているもの。この場合、「前方椎体高が減少」した場合とは、減少した全ての椎体の後方椎体高の合計と減少後の前方椎体高の合計との差が、減少した椎体椎体の後方椎体高の1個当たりの高さの50%以上であるものをいう。
67%

脊椎圧迫骨折特有の賠償上の問題点とは

外傷による圧迫骨折か否か

前記の通り、事故後に医師から圧迫骨折であると診断されても、それが外傷性の圧迫骨折であるか否かは、別途検討が必要になります。

事故前からすでに圧迫骨折状態という方もいるため、当該交通事故によって圧迫骨折となったことの立証が必要になります。この点、事故直後にMRIを撮影することで、骨折付近の出血の程度や、椎体の水分量などから新鮮な圧迫骨折か否かの診断が可能となるため、事故後は早期にMRIの撮影をしましょう。

また、自賠責保険では「既存障害」(事故前からすでに被害者が持っている障害)と「現存障害」(当該事故によって残った障害)という考え方があり、脊柱の圧迫骨折では高齢者の場合、既存障害として11級を認定されてしまうことが多く、「現存障害が11級であっても、事故によって加重したわけではないから非該当」と判断されてしまうことも多くあります。

しかし、このような認定であっても異議申し立てにより、事故前には明確な圧迫骨折はなかったと主張し、既存障害の判断を覆すことも可能です。また、認定された現存障害が過小評価されている可能性もあり、現存障害を8級相当であると主張して認定結果を覆すことも可能です。この辺りは個別具体的な画像の検証が必要となるため、交通事故に詳しい弁護士に相談・依頼することが有益でしょう。

後遺障害認定されても後遺障害逸失利益の交渉は難航?

通常、後遺障害が残るとその症状が就労に影響を与え、収入が減少したり、就労内容に変化を与えりといった不都合が生じます。

こういった後遺障害による就労への影響は、後遺障害逸失利益という賠償項目の中で金銭評価し、被害者は賠償金を受けることになります。

後遺障害逸失利益は、

基礎収入✖️労働能力喪失率✖️労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

で計算します。

この時、労働能力喪失率に関しては、自賠責保険が等級に応じた労働能力喪失率を定めています。上記の表に、自賠責保険等級表上の圧迫骨折に関する労働能力喪失率を記載しました。

11級について

もし、圧迫骨折により11級の後遺障害が認定された場合、上記の表に従えば、20%の労働能力喪失率を前提に後遺障害逸失利益を計算することになります。痛みに関する12級(14%の労働能力喪失率)や14級(5%の労働能力喪失率)よりも大きな喪失率ということになります。

しかし、実際の保険会社との交渉や裁判では、20%の労働能力が認められるケースはそう多くはありません。

保険会社の担当者は以下のように主張します。

「脊柱に変形があるだけで、実際の就労への影響は「痛み」によるものに限定されるのでは?」

圧迫骨折による11級の後遺障害は「変形障害」であり、「機能障害」(体が動かないことによる影響)とは異なり、「変形障害」それだけによる就労への影響は少ないと言われています。

この点、令和3年度東京地裁民事27部赤い本下巻における小沼日加利裁判官の講演録では、近時裁判例の傾向を分析し、11級の脊柱圧迫骨折について以下のように結論づけています。

「11級では、等級表上の喪失率をそのまま認定するものから、脊椎変形の程度、症状固定時の年齢、具体的な症状や職務上、生活上の支障の改善可能性等を考慮して喪失率の逓減や喪失期間の制限をする裁判例まであり、6級や8級の場合よりも、脊柱の支持機能に対する支障の程度が軽微であることを前提に、より個別具体的に就労や日常生活への具体的影響がどの程度かを慎重に考慮する必要があるといえそうです」と述べています。

したがって、裁判では必ずしも11級の喪失率がそのまま適用されるわけではなく、被害者ごとに個別具体的に検討することになります。実際の示談交渉においても、11級の後遺障害が認定されていても痛みに関する等級である12級(14%の労働能力喪失率)を前提に後遺障害逸失利益を算定せざるを得ないケースは相当程度あります。

後遺障害逸失利益の算定は、実際の就労内容、収入への影響などを考慮して、算定されるべきですから、機械的に喪失率を算定することは本来望ましくありません。また、脊柱は加齢により支持機能が低下し、将来的に圧迫骨折となった椎体がさらに潰れ、疼痛や可動域制限が悪化する可能性も否定できないため、現時点で症状が少ないとしても、長期的に見た時の労働能力喪失率を主張すべき場合もありますので、弁護士に相談して交渉することが有益な場合もあります。

後遺障害逸失利益と後遺障害慰謝料について、弁護士基準の満額を認めさせた腰椎圧迫骨折の事例

なお、6級や8級の認定に関しては、同講演録では以下のように分析されています。

8級について

8級についても等級表記載の喪失率を若干修正することがあり得ます。前記講演録では8級の裁判例では、「等級表上の喪失率をそのまま認定するか、脊柱の支持機能が維持されている具体的な事実を考慮して、40%から20%台の労働能力喪失を認定している裁判例が多く、20%を下回る労働能力喪失率を認定したり、労働能力喪失を否定する裁判例は少数といえる傾向があることから、8級においても脊柱の支持機能に対する支障が相当程度評価されているといえる」と述べています。

6級について

6級については、原則として自賠責保険の「等級表上の喪失率(%)を前提に、脊柱変形による具体的症状、事故前後の就労状況、既存障害の存在を考慮して喪失率が認定されており、脊柱の支持機能を害する程度が大きい場合には等級表上の喪失率を大きく離れることは少ないと思われます」と述べています。

6級に該当するような圧迫骨折の場合、脊柱の支持機能・保持機能に重大な影響を及ぼすものが多いと思われることから、等級表記載の喪失率が合理的であるという見方が多いようです。

千葉地裁の裁判例

千葉地裁 平成27年9月17日判決(自保ジャーナル・第1962号)

この事例は、20歳代男子大学院生が、千葉市若葉区内の交差点を傘差し運転の自転車で横断中、乗用車に衝突され、胸椎圧迫骨折、腰椎圧迫骨折の傷害を負い、脊柱変形障害により自賠責8級後遺障害を残した事案です。

この事例で、千葉地裁は、特に後遺障害逸失利益について以下のように判断しています。

「そして、前記前提となる事実のとおり、原告は、本件事故により第11、12、胸椎圧迫骨折及び第1、2腰椎圧迫骨折の傷害を負い、平成23年2月14日から同年3月15日まで入院により治療を受け、同年3月16日から平成24年8月14日まで通院により治療を受け、同日、症状固定と診断された。そして、証拠(略)によれば、「各部位の後遺障害の内容」欄に、「症状は腰痛」と記載されていること、現在の自覚症状は痛みであって可動域制限はないこと、自賠責保険における後遺障害等級については、「せき柱に中程度の変形を残すもの」として8級に該当すると認定されていることが認められる。このように、原告の現在の主たる症状は痛みであるところ、痛みは経年による軽減があり、原告は、医師の許可を得て、本件事故前から親しんできたモータースポーツの1つであるダートトライアルを(月1回程度とはいえ)楽しむ程度まで回復している(原告本人)。一方で、せき柱に中程度の変形を残すものが後遺障害として認定されているのは、せき柱の保持機能あるいは支持機能を害されることによることからすると、現在、可動域制限などの運動障害がないことをもって、ただちに労働能力喪失が低いとまではいえない。もっとも、原告は、本件事故後就職しているところ、後遺障害のために、特定の職業あるいは業種への就職を断念したとか、特定の作業を行うことができないなどの事情は認められない(原告本人)。他方で、自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書には、「症状不変の可能性あり」との記載がある。以上の事情を総合して、労働能力喪失率は、症状固定後(実際には24歳で就職していることから1年間のライプニッツ係数を控除することとなる)27歳までの5年間は45%、27歳から32歳までの5年間は30%、32歳から就労可能年齢である67歳まで35年間は14%と漸次逓減していくものとみなすのが相当である。

と判断しています。

いかがでしょうか。脊椎圧迫骨折の場合、等級該当性の問題から認定後の賠償交渉まで争点が盛り沢山です。かなり専門的な知見が必要になりますので、もし圧迫骨折と診断されたら、早期に弁護士に相談・依頼しましょう。

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この記事の監修者

弁護士 山田洋斗
弁護士法人サリュ千葉事務所所長弁護士。2015年から2020年まで交通事故発生件数全国最多の愛知県において多くの交通事故案件を扱い、これまで1000件以上(2023年2月時点)の交通事故案件を解決に導いてきた。2020年6月から地元の千葉県において千葉事務所所長弁護士に就任。日々、千葉県で交通事故被害に悩んでいる被害者の救済に尽力している。

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