死亡事故の遺族の方へ。死亡後の手続き、賠償手続きの流れ、刑事裁判の参加について

ある日突然訪れる死亡事故。

遺族の中には、あまりに突然のことで事実を飲み込むのに時間がかかる方もいるでしょう。

大切な人を失った中で、様々な手続きを迫られ、ゆっくり故人を偲ぶこともできないでいるかもしれません。

今回は、そのような遺族の方が、少しでもスムーズにかつ適切に、死亡事故後の手続きを進められるようにと思い、記事にしました。

この記事の監修者

弁護士 山田 洋斗

弁護士法人サリュ千葉事務所 所長弁護士
千葉県弁護士会所属
明治大学法科大学院卒業

【獲得した画期的判決】
・2021年8月 自保ジャーナル2091号114頁に掲載(交通事故事件)
・2022年 民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準上巻(赤い本)105頁に掲載
【交通事故解決件数】
1000件以上(2023年2月時点)

目次

死亡事故の後、やらなければいけない手続きとは?

①死亡診断書の受け取り

医師が死亡宣告をした後は、医師から死亡診断書を受け取ります。死亡届の提出や各種保険金請求の際にも使用しますので、写しを取るようにしましょう。

②葬儀会社への連絡、日程調整

 通常は亡くなった翌日を通夜、その次の日に告別式、火葬となります。葬儀会社と連絡をとり、日程の調整をしましょう。

 なお、死亡事故の場合、加害者を葬儀に呼ぶべきなのか、悩む方もいらっしゃいます。加害者の方から、参列したい旨の申し出があるかもしれません。遺族としては、「どうして事故が起きたのか」など、加害者に聞きたいことはたくさんあるでしょう。これを直接聞くために、葬儀に来るよう加害者につたえる遺族もいます。では、被害者の遺族としてはどのように対応したらよいでしょうか。

 通常、加害者が葬儀に参列した事実は、反省の念を示すものとして、刑事処分において加害者側の有利な事情として考慮される可能性があります。他方で、民事における損害賠償金の額には、加害者側の謝罪の事実や、葬儀への参列の事実はあまり影響を与えません。これらを踏まえて、遺族自身で決めるしかないと思われます。

 しかし、葬儀の場で遺族と加害者が対面することは、あまり好ましい事とはいえません。どちらかが感情的になることは容易に想像がつきますし、事故の状況などを細かく説明する時間も余裕も、お互いにあるとはいえないからです。なお、加害者がどのような状況で被害者を死亡させたのかなどの事故の詳細は、警察が作成する刑事記録でほぼわかります。死亡事故の場合は、頚椎捻挫等の軽傷とは異なり、警察が目撃者の証言、現場の状況の確認、加害者への取り調べなどを詳細におこない、大量の刑事記録が作成されます。さらに、後に説明しますが、被害者遺族は、刑事裁判手続きの中で加害者がどうして事故を起こしたのかなどを確認する機会は保障されていますので、葬儀に加害者を呼んで直接話しを聞く実益は乏しいといえます。

無用なトラブルを避けるためにも、加害者による葬儀の参列は、控えてもらうほうがいいかもしれません。

③死亡届の提出、火葬許可申請書の提出

死亡届は死亡の事実を知ったときから7日以内にする必要があります。死亡診断書を添付して、亡くなった方の本籍地、死亡地、または届出人の所在地の市町村役場に届出をします。

また、このとき、火葬許可申請書も併せて提出します。火葬の許可を出すのは、あくまで死亡届を受理した市町村長だからです。

③住民票、戸籍の変更、世帯主の変更の届け出

通常、死亡届を提出すれば、戸籍は除籍になりますし、住民票上も故人の情報は抹消されます。もっとも、死亡事故により世帯主が変更となる場合には、変更があった日から14日以内に市区町村への届け出が必要になります。新たな世帯主も届け出る必要があります。

④健康保険の資格喪失届

健康保険組合、協会けんぽ、国民健康保険、後期高齢者医療制度のいずれも、死亡の日の翌日に被保険者の資格を喪失します。そのため早期に事業主や市町村に対して保険証を返還しましょう。

⑤国民年金・厚生年金の資格喪失届

死亡すると、死亡の翌日に国民年金や厚生年金保険の被保険者としての資格を喪失します。市町村や事業主に対して、死亡の事実を伝えて資格喪失届等を提出しましょう。死亡時、年金を受給していた方も、年金受給権者死亡届を年金事務所に提出する必要があります。

突然の死亡事故で手持ちのお金が足りない!早期に一定額のお金を入手したいときは?

死亡事故の後は、葬儀費や治療費などの支払いなどが必要になりますが、一家の支柱であった人が亡くなってしまい、手持ちの現金等がない場合、これらの支払いに困ることも珍しくありません。他方で、保険会社との示談成立までには一定期間を要しますので、すぐにまとまった損害賠償金が遺族に入るというわけでもありません。

以下では、残された遺族が早期にお金を受け取ることのできる手続きを説明します。

遺産分割前の預貯金の引き出し

まずは、故人の遺産である預貯金の引き出しです。そもそも、銀行に死亡届を出さない限り、キャッシュカードとその暗証番号を知っていれば預貯金の引き出し自体はできます。しかし、故人のキャッシュカードの暗証番号を知っているとは限らないですし、引き出す金額によっては後に相続争いに発展する可能性もありますのでおすすめできません。

他方で、銀行は法定相続人であっても原則として遺産分割協議書がないと預貯金の引き出しには応じてくれません。しかし、令和元年7月1日に施行された民法909条の2の規定により、相続人は、法定相続分の1/3の額(金融機関ごとに150万円が上限)を引き出せるようになりました。これにより、銀行に対して戸籍などを提出することで相続人であることを証明できれば、銀行は一定額の引き出しに応じてくれるようになります。

すぐに一定額が必要な場合は、このような手続きを利用することが有益でしょう。

自賠責保険の仮渡金制度の利用

故人に必ずしも預金があるとは限りません。そのような場合は、自賠責保険の仮渡金制度を利用することを検討しましょう。

死亡事故の場合、290万円が自賠責保険から支払われます。このお金は後の示談交渉の際に既払い金として控除されるものではありますが、申請から1週間から2週間程度で支払われますので、手持ちのお金がない方は積極的に利用しましょう。

保険会社との対応方法、賠償金取得までの流れとは?

通常は、加害者に対人賠償責任保険の使用意思があり、そのことを保険会社が確認できれば、保険会社の担当者がすぐに被害者遺族に連絡をとります。この連絡は事故当日の場合が多いですが、遅くても1週間以内にはくると思われます。しかし、初回の保険会社からの連絡は、遺族の気持ちの整理がついていない状況ですから、いきなりお金の具体的な話をしてくることは通常ありません。初回の連絡は簡単な挨拶で終わり、「具体的な賠償の話は四十九日法要が終わった後にします」などと案内されることが多いでしょう。

また、交通事故の示談交渉は、損害額が確定した段階で始まることが一般的です。死亡事故の場合は、以下のとおり、亡くなった段階で損害額が確定しますので、必要書類を整えれば保険会社から賠償金の提示がくることが一般的です。

保険会社は、賠償金算定のための資料を被害者遺族に求め、賠償額を認定します。

提示された賠償金に被害者遺族が納得すれば、示談成立となります。

しかし、一般的に、任意保険会社が提示してくる賠償金は低廉なことが多いため、保険会社から賠償金の提示があってもすぐに示談するべきではありません。保険会社から賠償金の提示があれば、必ず一度、交通事故を多く扱う弁護士に相談すべきでしょう。

被害者遺族が加害者から事故の経緯等について話を聞く機会はあるのか?

交通事故の被害者及びその遺族は、「加害者がなぜ事故を起こしたのか」、「反省しているのか」、「被害者がどのようにして怪我をしたのか」知りたいと思うはずです。

しかし、遺族が直接加害者の話を聞くことができる機会はそれほど多くはありません。

以下では、被害者遺族が事故の経緯などを知ることのできる方法を紹介します。

刑事裁判の被害者参加制度

死亡事故が起きると多くの場合、加害者は起訴され、刑事裁判にかけられます。

日本の刑事裁判は、基本的には検察VS被告人(弁護人)という構図になっており、ここに事件の被害者や遺族は関わってきません。

しかし、以下の一定の犯罪に該当すると、被害者及び被害者遺族は「被害者参加制度」を利用することができ、刑事裁判に参加することが可能になります。

・殺人、傷害、危険運転致死傷などの故意の犯罪行為により人を死亡させたり傷つけた事件

・強制性交等・強制わいせつ、逮捕・監禁、過失運転致死傷などの事件

 交通事故により被害者が亡くなった場合、重度の後遺障害が残った場合は、上記の危険運転致死傷や、過失運転致死傷の罪として、被害者本人や親族(配偶者、直系親族、兄弟姉妹)は刑事裁判に参加することができます。

被害者参加が認められると、被害者遺族は、刑事裁判で以下のことができるようになります。

ア 公判期日に検察官席の隣などに座り、裁判に出席すること

イ 証拠調べの請求や論告・求刑などの検察官の訴訟活動に関して意見を述べたり、検察官に説明を求めたりすること

ウ 証人を尋問すること(情状に関することのみ)。

エ 被告人に質問すること

オ 証拠調べが終わった後、事実又は法律の適用について、法廷で意見を述べること

このように、被害者遺族は、法廷で直接加害者に対して事故の経緯などを確認することができます。

ただし、すべての手続きに参加できるわけではなく、一定の手続きに関しては裁判所から許可が出ない場合もあります。

なお、直接加害者に話を聞くのは怖いという方や、上手く質問できないという方もいるかもしれません。

その場合、被害者の代理人として、弁護士をたてて刑事裁判で代わり質問等してもらう方法もあります。

また、資力等の一定の要件がありますが、被害者参加のための弁護士費用は、国が負担してくれる場合もあります(被害者参加のための国選弁護制度)。

なお、弁護士法人サリュ千葉事務所では、死亡事故における損害賠償請求をご依頼の場合、併せて被害者参加制度における被害者の弁護活動のお手伝いもしております。

また、加害者に質問をしたり、検察官の訴訟活動に意見を述べたりするつもりはないが、刑事裁判において被害者及び遺族の心情を裁判官に伝えたいという方もいるかもしれません。

その場合は、被害者等の「心情等の意見陳述制度」を利用することも可能です。

この制度を利用すれば、法廷で、裁判官に対して被害者や遺族の感情を伝えることができます。

刑事記録の閲覧、謄写

刑事裁判は検察官や裁判官に任せたいが、警察の捜査記録などは見てみたい、という被害者や被害者遺族もいるかもしれません。

その場合、公判記録の閲覧・謄写ができる制度もあります。

公判記録ですので、公判に現れた証拠のみの閲覧謄写ではありますが、死亡事故の公判記録の場合、多くは実況見分調書や加害者の供述調書、目撃者の供述調書などを確認することができます。

刑事記録の詳細は以下の記事もご覧ください。

警察が作る刑事記録にはどのようなものがある?

なお、当事務所では、加害者への損害賠償請求手続きをご依頼の場合、刑事記録の謄写手続きのお手伝いもしています。

民事裁判における本人尋問

刑事裁判とは別に、加害者側に一定の不注意があり、過失があると判断できる場合には、民事裁判においても尋問手続きを経ることができます。

もっとも、民事裁判における本人尋問は、裁判の最後の方で実施されるものであるため、実際には死亡事故発生から1年程度経過したころになることが多いでしょう。

被害者遺族としては、加害者の行動、事故の経緯などを知りたいと思うはずです。この点、民事の損害賠償手続きや刑事の被害者参加制度を利用するため、交通事故に強い弁護士に依頼することが最も的確かつ効率的といえるでしょう。

次回は、「死亡事故の遺族の方へ。被害者遺族がもらえる賠償項目とは?弁護士に依頼するメリットとは?」について解説します。

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この記事の監修者

弁護士 山田洋斗
弁護士法人サリュ千葉事務所所長弁護士。2015年から2020年まで交通事故発生件数全国最多の愛知県において多くの交通事故案件を扱い、これまで1000件以上(2023年2月時点)の交通事故案件を解決に導いてきた。2020年6月から地元の千葉県において千葉事務所所長弁護士に就任。日々、千葉県で交通事故被害に悩んでいる被害者の救済に尽力している。

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