弁護士基準の慰謝料を獲得するための4つのポイントは?

弁護士基準で算出される慰謝料は、基本的には傷病の程度(骨折等の重傷か、むち打ち症等の軽傷か)、治療期間の長さで決まってきます。

このように考えると、治療期間が長ければ長いほど、慰謝料も高額になると思うかもしれません。

しかし、たとえば頚椎捻挫、腰椎捻挫等の傷病名で6か月間の治療期間であったとしても、事案によっては弁護士基準の慰謝料を獲得できない可能性が出てきます。

以下では、弁護士基準の慰謝料を獲得するための方法を説明いたします。

なお、以下の動画で当法人の弁護士山岸正芳と西内勇介が、弁護士基準の慰謝料のことについて5分程度で説明しておりますので、ご参照ください。

この記事の監修者

弁護士 山田 洋斗

弁護士法人サリュ千葉事務所 所長弁護士
千葉県弁護士会所属
明治大学法科大学院卒業

【獲得した画期的判決】
・2021年8月 自保ジャーナル2091号114頁に掲載(交通事故事件)
・2022年 民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準上巻(赤い本)105頁に掲載
【交通事故解決件数】
1000件以上(2023年2月時点)

目次

①治療はできるだけ整形外科を中心に。整骨院への通院は医師とも相談しましょう。

整形外科での治療ではなく、接骨院や整骨院の治療がメインとなっていて、その治療費が高額になっている場合には注意が必要です。

接骨院や整骨院の治療費は、保険会社が「必要のない費用では?」と主張してくるケースが多々あります。

接骨院や整骨院における治療は、被害者からすれば痛みが軽減され、有効だと感じることが多いです。また、整形外科よりも時間に融通がきき、通いやすいというメリットもあり、痛みを少しでも軽減したいと思う被害者にとって、強い味方になってくれます。

しかし、実際の賠償交渉では、「非科学的な治療である」、「整形外科における医学的な治療と異なり根本的な治療とはいえない」などと保険会社側から主張され、必要性や相当性を否定されるケースが多くあります。

特に長期間にわたり、しかも多数回、接骨院や整骨院に通っていると、その治療費も高額になり、治療の必要性・相当性に疑義が生じます。この整骨院や接骨院の治療費を相手方保険会社が既に支払っている場合、弁護士基準の慰謝料をそのまま回収できない場合があります。これは、整骨院や接骨院の治療費が必要性、相当性の乏しいものだと判断されると、治療費の損害項目としては過払いとなる可能性が出てくるからです。

治療中は、保険会社の担当者は「接骨院にいってもいいですよ」というかもしれません。

しかし、訴訟等に移行した場合には、保険会社はこれらの発言を平気で撤回します。

保険会社は、あくまで賠償金の一部として支払ったに過ぎない、接骨院の治療費は無駄な費用であった、などと主張するのです。

よって、整形外科におけるリハビリテーションを中心に治療する方が、保険会社に弱みを握られないためには賠償上は有効です。

ただし、現実問題として、整形外科における治療は湿布や薬を処方するのみで、被害者として不十分であると感じるケースがあります。そのため、整骨院や接骨院における治療の方が有効であると感じる方もいます。

この点、整骨院や接骨院の治療は、必ずしも全てダメというわけではありません。医師の許諾がある場合、指示がある場合、施術の内容が実質的に整形外科におけるリハビリテーションと同等である場合、有効性が認められる場合などは、接骨院や整骨院の治療費も、必要性や相当性が肯定されることがあります。

接骨院や整骨院の治療費について争いが生じそうであれば、その対応については弁護士にご相談ください。

②治療頻度は週3、4回程度がベスト

治療内容や通院頻度については、基本的に医師の指示にしたがうことになります。もっとも、賠償上は週に3、4回程度がよいと思われます。たとえば月に1回程度の治療だと、それだけで「痛みはそんなになかったのでは?」「症状は軽いのでは?」と思われてしまうからです。

痛みというのは、目に見えるものではありません。もちろん、骨折や脳損傷など、画像所見の明らかな傷病であればいいのですが、むち打ち等の他覚的所見のないケガだと、保険会社に痛みを理解してもらうのは難しくなってきます。

そこで、通院実績という形で、痛みを証拠に残すことが重要です。

なお、通院日数(実際に病院に行った日数)が少ない場合に、保険会社が弁護士基準の慰謝料の支払いを拒むのは、もう一つ、重要なカラクリがあります。

それは示談後の自賠責保険からの回収の問題です。

保険会社(任意保険会社)は被害者との示談後、支払った賠償金のうちの一部を自賠責保険に回収しにいきます。

当然、保険会社は被害者と示談する際も、「自賠責からいくら回収できるのか?」というのを意識しながら交渉するはずです。

そして、自賠責の慰謝料の計算は、基本的には通院日数がベースになっており、実通院日数×4300円×2が基本となります。

つまり、被害者側が「通院期間」をベースに弁護士基準の慰謝料を請求しても、保険会社は「通院日数」をベースにした計算(自賠責基準)を念頭におくため、ここで慰謝料の考え方に乖離が生じるのです。

たとえば月1回の通院を6か月間継続していた場合と、月15回(週3回くらい)の通院を6か月継続していた場合では、以下のように自賠責保険基準の支払い額に大きな金額差が生じます。

月1回の通院を6か月継続していた場合  4300円×6日×2=51,600円

月15回の通院を6か月継続していた場合  4300円×90日×2=774,000円

すなわち、保険会社からすれば、たとえば月1回の通院だけだと、「通院日数が少ないから自賠責から回収できる賠償金も少ない。弁護士基準で支払ったら、うちの手出しが多くなる。だから弁護士基準の慰謝料は支払えない。」という判断になるのです。

このように、早期に、かつ、妥当な賠償金を回収するためには、通院日数を確保することが重要といえるでしょう。

ただし、毎日のように通院していると、それはそれで過剰診療の問題が生じてきますし、自賠責保険の上限額(120万円)に早期に到達するため、治療費の打ち切りが早まる可能性があります。通いすぎも、注意が必要です。

③治療期間が長すぎるのも注意

傷病の程度に相応しないほど長期間の治療となっている場合、保険会社から「本来はもっと早く治療を終えるべきだったのでは?」と主張され、短い治療期間を認定される可能性があります。そうすると、実際に通った期間分の慰謝料を回収できなくなる可能性があります。

たとえば、頚椎捻挫や腰椎捻挫等、むちうち症といわれるケガの場合、妥当な治療期間は3か月~6か月といわれています。

もちろん、個人差はありますし、6か月以上通ったらダメというわけではありません。

ただ、特に治療費を相手方保険会社が立て替えて支払っている場合(いわゆる一括対応をしている場合)、示談交渉時になって、「本当に妥当な治療期間は○か月であり、それ以上の治療費を立て替えているのだから慰謝料から差し引きされるべきだ」などと主張される可能性があります。

私の経験上、むちうち症で1年の治療期間を超えてくると、1年分の弁護士基準の慰謝料を回収することが難しくなってきます。

また、そもそも弁護士基準の慰謝料は「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(いわゆる赤い本)をベースに計算されるのですが、そこには「通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえ実通院日数の3.5倍(別表2なら3倍)程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある。」と記載されております。

たとえば、むちつち症で1年6か月間治療して、その間、月5日程度の実通院日数(合計90日くらい)だった場合、「通院が長期」にわたっていると判断され、90日×3=270日(9か月)が慰謝料算定の治療期間となるということです。

このように、特に相手方保険会社に治療費を立て替えてもらっている場合、治療期間が長くなりすぎるのもよくありません。

④既往症と判断される疾患がない方がいい

頚部挫傷後の頚部痛や、腰部挫傷後の腰部痛については、それぞれ頚椎椎間板ヘルニア、腰椎椎間板ヘルニア等の持病(既往症)を有している被害者は注意が必要です。

この場合、「事故後の治療のうち一部はもともとあった持病の影響では?」と主張される危険があります。

脊柱管狭窄症や後縦靭帯骨化症、骨粗鬆症、脳性麻痺などの場合も、既往症の主張をされる場合があります。

千葉地裁の既往症に関する判決

たとえば、千葉県の交通事故の事例でも、以下のように既往症の主張を裁判所が認め、損害額が減額された事例があります。

千葉地裁平成21年5月27日判決

千葉県千葉市で発生した交通事故で、被害者が頚椎捻挫、腰椎捻挫、外傷性頚肩腕症候群等の傷病を負ったものの、被害者には事故前から頚椎狭窄、腰椎狭窄及び頚椎ヘルニア等の持病があった事例で裁判所は、

本件事故による「外力の衝撃は小さかったと認められること、頚椎の変性狭窄不安定性はC4からC7と広範囲に及んでいること、このような広範囲の頸椎の変性狭窄不安定性は、本件事故による外力だけでは説明は困難であると解されること」などを理由に、「頚椎の変性狭窄及びヘルニアは加齢に伴う通常の変性ということはできず、民法722条2項を類推適用して、素因を斟酌し(最高裁平成20年3月27日第1小法廷判決参照)、その寄与の割合を3割と認めるのが相当である」

と判断し、被害者の損害を3割減額しました。

ただし、このような持病があったからといって、ただちに治療の必要性や相当性を否定されるわけではありません。

特に、年を重ねるにつれて老化現象によって腰痛や頚部痛を発症することはよくあり、そのために整形外科に通うことは特におかしなことではありません。

たとえば、千葉県の裁判所でも、以下のような判断をした事例がありました。

千葉地裁平成16年9月15日判決

千葉県千葉市稲毛区で発生した交通事故で、被害者が頸椎捻挫、腰部打撲、左第7肋骨骨折、頭部打撲、腰椎捻挫、左胸部打撲の傷害を負った事例で裁判所は、

被害者が「56歳という年齢であったことにかんがみれば、同人の変形性頸椎症、変形性腰椎症及び骨粗鬆性変化は、加齢に通常伴う程度の変性ということができ、かかる変性は当然にその存在が予定されているものであるから、これを損害賠償の額を定めるにつき斟酌することは相当でない。」

と判断し、保険会社側の減額の主張を否定しました。

このように、年相応の症状といえる場合には、身体的特徴の範疇といえ、既往症と判断されるべきではないでしょう。

保険会社から不合理に既往症を主張されている場合には、早期に交通事故専門の弁護士に相談することをおすすめいたします。

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この記事の監修者

弁護士 山田洋斗
弁護士法人サリュ千葉事務所所長弁護士。2015年から2020年まで交通事故発生件数全国最多の愛知県において多くの交通事故案件を扱い、これまで1000件以上(2023年2月時点)の交通事故案件を解決に導いてきた。2020年6月から地元の千葉県において千葉事務所所長弁護士に就任。日々、千葉県で交通事故被害に悩んでいる被害者の救済に尽力している。

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