今回は、会社員の休業損害についてお話します。
交通事故に遭って負傷すると、痛み等によりお仕事を休むことがあります。
仕事を休めば、会社から給料は支払われませんので、生活に支障をきたします。
当然、保険会社に休業損害を請求することになります。
今回は、会社員の休業損害に絞って、休業損害の算定方法、有給休暇の扱い、休むときの注意点などを解説します。
休業損害は減収額の賠償が基本
交通事故の損害賠償額は、民事交通事故訴訟「損害賠償額算定基準」(いわゆる赤い本)によって算定されるのが基本です。この本は、裁判所も使います。
この本の中では、会社員の休業損害は「休業したことによる現実の収入減」とされています。
つまり、現実に収入が減っていなければ、休業損害とは認められません。たとえば、交通事故によって負傷し、仕事を休んだものの、会社が給料を支払い続けていた場合は、会社が肩代わり損害を保険会社に請求する場合があっても、被害者は休業損害の請求をすることはできないのが原則です。
具体的な算定方法は?
では、具体的に会社員の休業損害はどのように算定されるのでしょうか。以下の事例を検討してみます。
会社員のAさんの場合
事故前3か月の平均総支給額:30万円
事故前3か月の平均稼働日数:20日(土日休み)
事故後の休業日数:2週間(内4日が土日で休み)
この場合、Aさんとしては2週間分の休業損害を請求することになり、通常は以下の計算式を使います。
30万÷20日=15,000円
15,000円×10日=15万円
このように、Aさんは15万円の休業損害を請求できます。通常は、休業損害証明書などを会社に作成してもらい、保険会社に提出して支払いを求めることになります。
なお、保険会社は基本的に事故前3か月の平均総支給額を90日で割り、休業日数(上記でいう10日)を乗じて算出してくるケースが多いと思われます。この計算方法は自賠責保険の損害算定で使用される計算式です。この計算だと、土日なども稼働している前提で日額を算定されてしまうため、実際の損害よりも低い賠償になってしまいます。そのため、仮に90日で割るのであれば、乗じる日数(休業日数)も土日を含めた日数にするのが整合的といえるでしょう。
有給休暇の場合は?
有給休暇を使用した場合も、使用した日数分の休業損害が認められます。有給休暇を使用すると実際に減収があったわけではないのでは?と思われる方もいますが、事故に遭わなければ有給休暇は別のこと(例えば旅行など)に使用できたわけですから、有給休暇の使用利益を失ったということがいえるわけです。
そのため、有休を使用して仕事を休んだ場合には、使用した日数分の休業損害を請求すべきでしょう。
なお、有給休暇を使用した場合の休業損害は、厳密にはその経済的価値を就業規則などの会社の規定から算出します。
賞与が減った場合は?
休業が長期にわたる場合、出勤日数が足りなくなることで賞与が減額されるケースも多くあります。
しかし、交通事故がなければ通常通り出勤して賞与も支給されたといえる場合には、賞与の減額分も休業損害の一種として保険会社に請求することが可能です。
通常は減額された賞与額を会社に算定してもらい、賞与減額証明書などにまとめ、保険会社に請求することになります。
遅刻、早退した場合は?
被害者の中には、通院のために会社を早退したり、遅刻したりする方もいるでしょう。その場合は、午前休や午後休をとることで、給料が減ってしまうと思われます。
この場合、厳密には前記2(「具体的な算定方法は?」)で記載した日額から時給を算定し、休業した時間を乗じることで休業損害を算出します。時間単位で有給休暇を取得した場合も同様の扱いとして請求は可能です。
休業する際の注意点
休み過ぎてしまうパターン
被害者の方の中には、休めば休むほど休業損害がもらえると思いこみ、必要以上に休業してしまう方がいます。
しかし、休業損害が認められるためには、休業の必要があった、相当な休業だ、という事情が必要です。そのため、傷病名に比して休業が長期にわたる場合、保険会社から「もっと早く復帰できた」、「こんなに休む必要はない」などと主張されます。
たとえば、頚椎捻挫、腰椎捻挫などの怪我で半年間完全休業しているような場合には、全額の休業損害を回収することは困難でしょう。保険会社から回収できるのは多くても1、2か月分くらいです。休んでいる以上会社から給料は払われないですし、保険会社からも休業損害は払われないということになります。
この場合、とても損するので、注意しましょう。
事故から一定期間経過後に休業してしまうパターン
受傷から日が経ってから休業する場合も注意が必要です。これも上記(1)のパターンと同様、休業の必要性を否定されるパターンです。
受傷当初は仕事ができていたのに、事故後一定期間経過後に急に休むような場合、休業が必要だったのか、疑義が生じるのです。
保険会社には、「事故直後が最も症状が重篤で、治療により徐々に回復していくはずだ」、という考えがありますので、事故後一定期間経過後に休む場合には注意が必要です。なお、ケガが重篤の場合(脊髄損傷や脳損傷、多発骨折など)で後遺障害が残るような場合にはあまり問題となりません。
休んだ日に通院していないパターン
前記のとおり、被害者の中には、通院をするために会社を休んだり、遅刻早退をしたりする方もいると思われます。しかし、後になって通院日と休業日に齟齬があり、通院のための休業であることを否定されるケースがあります。
事故直後の休業の場合はそれほど問題となりませんが、事故から一定期間経過後の休業の場合は、通院日との整合性がチェックされることは多くあります。
休業したのであれば、基本的には通院した方がよいでしょう。
千葉地裁の会社員の休業損害の事例
以下では、千葉県の裁判所の裁判例を紹介します。
千葉地裁平成5年5月27日判決
千葉県千葉市譽田で起きた交通事故で、原告が約340万円の休業損害が発生したと主張していた事例で、裁判所は、「証拠(原告本人)によれば、原告は本件事故の1年くらい前からトラック助手の仕事をして1日あたり5000円程度の収入を得ていたこと、日曜日は仕事をしていなかったこと、入院中及び前記の通院期間中はけがの状態や医師の助言により右の仕事に就労することができなかったことを認めることができる。そして、右期間は長期間であり、この間年末年始が2度あり、そのほかに日曜日以外の休日もあるし、休暇をとることも一般的である。そうすると、原告は、約22・6か月間に1か月23日程度の割合による520日間1日あたり5000円の割合による合計260万円の休業損害を被ったと認めるのが相当である。」と判断しました。
千葉地裁平成19年8月31日判決
事故当時32歳の会社員が左大腿骨開放骨折及び左足関節外果骨折等の傷害を負ったため、すべての治療期間を完全に休業したとして合計約1640万円の休業損害を請求した事案で、千葉地裁は以下のように判断しました。
「ア 原告は、本件事故発生日(平成13年3月24日)から症状固定日(平成16年8月23日)までの全期間にわたり、100%の休業損害を主張する。
イ しかしながら、乙第4号証の診療録によれば、平成15年6月20日に骨移植手術を受け、同年7月5日に退院してからは(同25頁)、徐々に仮骨が形成され、左足に一定の荷重をかけられるようになっていることがうかがえる(同9頁~17頁)。さらに、平成16年7月22日の看護記録(同135頁)には、原告が当時日常生活動作(ADL)の支障がない旨記載されている。このような事実からすれば、原告は、入院期間中は就労不能であったものの、平成15年7月6日以降症状固定日まで(ただし、平成16年7月22日から同月30日までの入院期間を除く。)の間、全く就労不能であったと認めることはできない。
ウ よって、休業損害においては期間に応じて
(ア) 平成13年3月24日(本件事故時)から平成15年7月5日まで 100%
(イ) 同年7月6日から平成16年7月21日まで 80%
(ウ) 同年7月22日から同月30日まで 100%
(エ) 同年7月31日から平成16年8月23日(症状固定時)まで 70%
の労働能力喪失率により算定するのが相当である。
エ 休業損害算定の基礎収入日額としては、甲第23号証の「平成12年分給与所得の源泉徴収票」によりこれを求めると、次のとおり、1万2,630円となる。
4,622,660円÷366日(閏年)=12,630円」
「カ 以上のところから、原告の休業損害は、次のとおり、合計1,471万9,002円となる。
(ア) 平成13年3月24日から平成15年7月5日まで(834日間) 1
00%喪失
12,630円×834日×1.00=10,533,420円
(イ) 同月6日から平成16年7月21日まで(382日間) 80%喪失
12,630円×382日×0.80=3,859,728円
(ウ) 同月22日から同月30日まで(9日間) 100%喪失
12,630円×9日×1.00=113,670円
(エ) 同月31日から同年8月23日まで(24日間) 70%喪失
12,630円×24日×0.70=212,184円」
上記の裁判例では、原告の症状に回復傾向があったため、治療期間すべての完全休業を否定しました。
まとめ
いかがでしょうか。会社員の休業損害の算定は、簡単なようで意外と複雑ですので、妥当な賠償金を獲得するためには一度交通事故に精通している弁護士に相談することが有益でしょう。
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