今回は後遺障害逸失利益を増額させるポイントや問題になりやすい後遺障害を解説していきます。
なお、後遺障害逸失利益の意味や計算方法などの詳細は後遺障害逸失利益とは?① 計算方法を解説!の記事をご覧ください。
計算方法
まずは、後遺障害逸失利益の計算方法をおさらいしておきます。後遺障害逸失利益は以下のように計算されます。
上記の計算方法をみればわかるように、基礎収入が高ければ高いほど、労働能力喪失率が高ければ高いほど、労働能力喪失期間が長ければ長いほど、後遺障害逸失利益は高く算出されます。
妥当な基礎収入とは
後遺障害逸失利益を算出する際の基礎収入は、基本的には事故前年度の収入です。これは、事故前年度の収入がもっともその被害者の稼働能力を示しているといえるからです。
将来、収入が増額することが明らかな場合は?
しかし、後遺障害逸失利益は、あくまで「将来」の収入への影響を金銭換算するものですから、将来において収入が増額する蓋然性がある場合には、増額後の収入を基礎とすることもできます。
特に、若い方の場合、現時点で収入が低いとしても仕方ないといえるため、将来の収入増額の蓋然性を考慮して基礎収入を認定することが一般的です。事故当時概ね30歳程度の人の場合、男女別全年齢平均賃金(賃金センサス)を基礎収入とすることが可能です。
将来収入が高くなることが明らかであるにも関わらず、事故前年度の収入を基礎として将来の逸失利益を算出することは不当ですので、平均賃金を使用するわけです。
これは学生の場合も同じです。
千葉県の裁判例では症状固定時19歳の学生の事例で、賃金センサス男性学歴計全年齢平均5,267,600円を基礎収入とした事例(千葉地裁平成26年3月13日)がありました。
また治療中に転職をした結果、収入が上がったという人もいるかもしれません。その場合も、増加後の収入を主張できます。
この場合、仕事への影響がないのでは?と保険会社側から主張されることもありますが14級などの後遺障害の場合、事故翌年度の収入の方が事故前年度の収入より高くなることは往々にしてあり、それほど不自然なことではありません。むしろ、事故に遭わなければもっと高い収入を得られたという反論が可能でしょう。
事故前年度の収入がたまたま低かった場合は?
さらに、事故前年度の収入がたまたま低かった、という方もいるかもしれません。その場合は、たとえば過去5年間の平均収入を算出し、それを基礎収入とすることも可能です。
その方が、被害者の稼働能力をより正確に把握できるからです。
労働能力喪失率表以上の喪失率を主張できる場合もある
原則として、労働能力喪失率は、労災の喪失率表に記載された数値となります。
労働能力喪失率表はこちら
しかし、この労災の喪失率表は、労働基準局長通牒(昭和32年7月2日基発第551号)に依拠しているもので、同通牒による労働能力喪失率は政策的な観点から設定されたものに過ぎず、特に合理的な根拠はないとされています。
つまり、ほかに適切な基準がないから、仕方なくこの喪失率表をつかっているわけです。
もっとも、損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を補填することを目的とするものであり、被害者の職業と傷害の具体的状況により、その収入減少率に照応する損害の賠償が認められるべき(最高裁昭和48年11月16日判決参照)でしょう。
例えば、足の可動域制限には12級という等級があり、これは喪失率表では14パーセントとなるわけですが、被害者が重労働を前提とする現場作業員の場合と、デスクワークで座りっぱなしの会社員とでは、仕事への影響が大きく異なります。そのため、両者を同様の喪失率とすると不当な結論になります。前者の場合、退職を余儀なくされるくらいの影響ですから、労働能力喪失率表をそのまま適用するべきでないとの主張も正当といえるでしょう。
実際の千葉県の裁判例では、調理師が利き腕である右手の握力低下の症状で14級の認定を受けた事例で、以下のように判断しました。
67歳を超えても働くことが予定されている場合は?
原則として、労働能力喪失期間は67歳までとされています。しかし、職種によっては企業が定年の引き上げている場合もあり、67歳を労働能力喪失期間の終期とすべきではないケースもあります。
実際、令和3年4月1日施行の改正高年齢者雇用安定法では、70歳までの定年引上げ等を事業主に努力義務として課しています。そのため、67歳を超えて働くことが具体的に予定されている場合には、67歳を超えた後の労働能力喪失期間を主張していくべきでしょう。
後遺障害逸失利益の算定の際に問題となりやすい後遺障害
外貌醜状
外貌醜状は、顔面などに目立った傷跡が残ってしまう場合に認定される後遺障害であり、7級~14級まで認定されます。
しかし、顔面の傷跡が、就労に影響を与えるケースはそれほどなく、労働能力喪失率が限定的に判断されるケースが多くあります。後遺障害逸失利益自体、否定されてしまうケースもあります。たとえば、千葉県の裁判例でも以下のようなものがあります。
このように、醜状痕それ自体による逸失利益を否定しています。
ただし、醜状が後遺障害逸失利益として評価されないとしても、裁判例では後遺障害慰謝料を増額して認定しているケースが多いため、保険会社から後遺障害逸失利益を否定されても、あきらめずに後遺障害慰謝料の増額を主張しましょう。
脊柱の変形・その他の体幹骨の変形障害
脊柱圧迫骨折などによる脊柱の変形は、脊柱の支持機能・保持機能を低下させるものであり、変形の程度に応じて6級~11級の等級が認定されます。また、たとえば肩鎖関節脱臼後の鎖骨の変形の場合は12級の後遺障害が認定されます。
しかし、特に圧迫骨折による11級の認定を受けた場合は、喪失率表では20%の労働能力喪失率となりますが、実際には14%の労働能力喪失率と判断されてしまうことが多くあります。これは、脊柱が変形していても、変形による就労への影響は限定的であり、多くは「痛み」が残ったことによる就労の影響があるだけと判断されてしまうからです。そのため、保険会社は11級だからといって労働能力喪失率表とおり20%として認定するのではなく、「頑固な神経症状」を前提とした12級程度の喪失率(14%)を認定することが多くあります。
千葉地裁の裁判例でも、8級の変形障害の事例ですが、以下のように判断して通常の8級よりも限定的に労働能力喪失率を判断しています。
この裁判例では、8級(喪失率表では45%)の労働能力喪失率をそのまま認定せず、限定的な喪失率を認定しています。
もっとも、圧迫骨折による脊柱の変形であったとしても、就労の内容によっては喪失率表とおりの労働能力喪失率が認定されているケースもありますので、あきらめずに交渉しましょう。
後遺障害逸失利益と後遺障害慰謝料について、弁護士基準の満額を認めさせた腰椎圧迫骨折の事例
胸腹部臓器の機能障害
胸腹部臓器の機能障害には、呼吸器、循環器など、障害のある臓器によって様々な等級が認定されます。
しかし、臓器の機能障害が認定されていても、就労に影響を与えるほどの労働能力の低下がないケースが多くあります。
その場合、喪失率表とおりの労働能力喪失率が認定されない場合があります。
たとえば、千葉県の裁判例ではありませんが、仙台の事例で以下のような判決がありました。
いかがでしょうか。
後遺障害逸失利益の交渉は、高度な医学的知識や裁判例の知識が必要とされます。
後遺障害認定を受けたものの、後遺障害逸失利益の妥当性がわからないという場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
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