交通事故で脊髄損傷となった場合、自分の身体が自由に動かないことのショックに加え、将来の介護の不安、補償の不安など、被害者の精神的ストレスは想像を絶するものがあります。
今回は、交通事故で脊髄損傷となった方を対象に、適切な賠償金を獲得するためにすべきこと、知っておくべきことなどを解説しました。
脊髄損傷となった本人の精神的ショックは計り知れないものがあり、被害者本人だけで賠償手続きを進めていくことは多くの困難が伴います。そのため、今回の記事は、ご家族の方にも知っていただきたい内容となっております。
脊髄損傷とは?
脊髄損傷とは、その名の通り、脊髄が損傷を受ける傷害のことを指します。脊髄は、脳とつながっている束のようなものであり、神経伝達機能を有する重要な器官です。そのため、脊髄損傷となると、脳から体の各部位に命令が行かなくなり、麻痺や運動障害、排尿障害などの症状が出てきます。脳からの命令は上から下に流れていきますので、上の方の脊髄を損傷すると、それ以下の脊髄に脳からの命令が伝わらなくなり、損傷個所より下位の神経支配領域に脊髄症状が出てきます。
交通事故などの強い外力がせき柱に加わることで、せき柱の中に入っている脊髄が損傷し、脊髄損傷となります。交通事故の世界では接することの多い傷病といえます。
脊髄損傷は、その損傷部位に応じて、頸髄損傷・頚髄損傷(C1~C7)、胸髄損傷(T1~T10)、腰髄・仙髄損傷(T11~L1)、馬尾神経損傷(L2以下)に分類されますが、圧倒的に多いのが頸髄損傷です。追突事故などにより頚椎が過伸展することで、頸髄損傷となるケースが多いといえます。
脊髄損傷となった場合、運動機能の回復は困難である場合が多く、残った機能を上手く使えるように訓練していくことが重要となります。
脊髄損傷になった場合の賠償金支払いまでの流れは?
脊髄損傷となった場合、その損傷の程度、回復状況にもよりますが、多くの場合、後遺障害が残り、自賠責の後遺障害認定を受けることになると思われます。以下に、後遺障害が残存することを想定した賠償手続きの流れを説明します。

上図のように、まずは治療に専念することです。賠償金のことも重要ですが、必ずしも満足な賠償金を獲得できるとも限らないため、少しでも体を回復させるようリハビリにはげむことが重要です。
脊髄損傷となった方の場合、その損傷状況にもよりますが、6か月から1年程度の治療期間を要し、症状固定となるケースが多いと思われます。
この間、後ほど説明しますが、MRI撮影や神経学的検査をしっかりとすることが重要です。特に、神経学的検査については定期的に行っている必要があります。
症状固定となると、後遺障害申請手続きに入ります。ここからは、少しずつ賠償手続きが本格化していきます。
脊髄損傷となった方の場合、通常の後遺障害診断書の他に、「脊髄症状判定用」という書類や、「神経学的所見の推移」と呼ばれる書面の作成が必要になります。これらは、主治医の先生に記載してもらいます。
保険会社の担当者によっては、このような書面をちゃんと案内しない場合もあるため、必要書類についてはよく知っておくべきでしょう。自賠責は書類審査になるため、書類の提出に不備や不足があると、適切な後遺障害等級を獲得できないことになりますので注意が必要です。
無事、後遺障害等級が認定されたら、その後は賠償交渉となります。
脊髄損傷となった場合、慰謝料や逸失利益だけでなく、介護費用や自宅改造費など、通常のむち打ちや骨折の場合には計上されない損害項目も請求できる場合がありますので、漏れのないように請求するべきです。
無事、示談が成立すれば、賠償金の入金となります。
脊髄損傷となった場合に弁護士に依頼するタイミングはいつがいい?
脊髄損傷となった場合、後で説明するように、受傷直後から賠償を意識した行動が重要となってきます。もちろん、事故当初は、脊髄損傷となったことの精神的ショックが大きく、賠償のことを冷静に考えられる状態ではないかもしれません。しかし、将来のことを考え、家族の協力を得るなどして、まずは弁護士に相談してみましょう。
相談=依頼
ではないですし、最近は無料の法律相談を実施している法律事務所も増えてきました。
交通事故に特化した弁護士に相談することで、まず何をしなければいけないのか、冷静に考えるきっかけにもなるでしょう。
また、脊髄損傷となった場合、弁護士へ正式に依頼することも、早期にした方がいい場合が多いです。
脊髄損傷となった場合には、賠償金も高額になる可能性が高く、弁護士費用を考慮しても費用倒れの心配は少ないため、早期の依頼が有益といえます。もし、弁護士用特約があれば、費用負担を気にする必要もなくなるので、弁護士に依頼するメリットはより多くなります。
脊髄損傷の場合に賠償上問題になりやすい点とは?
そもそも脊髄損傷といえるのか?
診断書やレセプトには頸髄損傷(頚髄損傷)という傷病名が記載されているにもかかわらず、MRIなどの画像上、そのことが明らかではない場合、そもそも頚髄損傷・頸髄損傷といえるのかどうかが問題になることがあります。
「医師が診断しているのだから頸髄損傷で間違いない」と思われるかもしれないですが、医師の診断にも客観的な根拠が求められるのが賠償の世界です。
だからこそ、精度の高いMRIによる受傷後早期の画像撮影や、画像診断を補助するための神経学的所見などの検査が必要になってくるのです。
既往症によるものでは?
脊髄損傷の中にも、年齢による経年性変化が主な原因となって脊髄症状が出たというケースがあります。特に、中心性脊髄損傷と診断されたケースの場合、中高年者の重度の脊柱管狭窄が脊髄症状発症の原因となっている場合があり、外傷性の脊髄損傷を否定され、自賠責保険による後遺障害申請をしても非該当となるケースが往々にしてあります。
以下では、外傷による脊髄損傷を立証していくために事故直後からするべきことを説明していきます。
脊髄損傷となった場合に事故直後からやるべきこととは?
症状を早期に、詳細に伝えること
脊髄損傷となると、損傷個所に応じた神経支配領域に、麻痺症状や運動機能の低下、しびれなどの症状が生じます。しかし、受傷後一定期間経過後にこれらの症状が出て、医師に伝えられるというケースがあり、その期間があまりにも長い場合、事故と症状との因果関係が否定されることがあります。
受傷後1週間程度に訴えられた脊髄症状であれば、それほど問題にはならないですが、事故後1か月を超えてから訴えられた脊髄症状については、「事故以外のことが原因ではないか?」などと自賠責や相手方保険会社から主張されることが多く、争点となりやすいです。
そのため、受傷直後は自身の身体の状態には注意を払い、少しでも脊髄症状が出た場合には、早期に医療機関を受診し、その旨を医師に訴えることが重要です。そして、そのことを医療記録に残しておくことが大事です。
MRI撮影をすること
外傷による脊髄損傷として後遺障害認定を受けるためには、外傷性の脊髄損傷といえるだけの画像上の裏付けが必要になります。
外傷性の脊髄損傷を裏付ける画像所見には、MRI画像が使われることが一般的です。受傷当初はレントゲンやCTを撮ることが多いのですが、残念ながら医療機関によってはMRI撮影が後回しになり、受傷後数か月経ってから初めてMRI撮影をするということもあるようです。
しかし、脊髄損傷は、受傷後数時間から48時間以内に撮影されたMRIによって脊髄内の高信号領域が顕出されることが多く、この高信号領域は時間の経過とともに縮小していきます。そのため、受傷後相当期間経過後にMRI撮影をしても異常所見が明らかにならないことがあり、外傷性の脊髄損傷の立証ができないケースが相当数あります。
そのため、受傷後できるだけ早期に、MRI撮影をすることを強くお勧めします。仮に、医師が治療上不要であると言っていたとしても、立証のためには重要であることを説明し、撮影をするべきでしょう。
MRI撮影の重要性についてはこちらでも解説しております。
神経学的検査の実施
自賠責の後遺障害認定において、脊髄損傷を否定する理由をみていると、神経学的な異常所見がないことや、これが一貫していないこと、症状との整合性がないことなどが理由として挙げられています。
神経学的所見とは、主に腱反射のテストを指します。被害者の方は、医師から三角形のハンマーで肘や膝を叩かれた経験はありますでしょうか?これが腱反射のテストです。脊髄損傷の場合、腱反射のテストの結果は基本的に「亢進」となります。これは、脳からの命令に十分に従えていないことを示しており、脊髄に異常があることを裏付けています。腱反射のテストは、嘘をつくことが難しい検査であり、客観的所見のひとつとされています。この検査結果は等級認定においてとても重要となるため、かならず実施するようにしましょう。
また、この神経学的所見の検査は、定期的におこない、受傷当初から症状固定まで一貫して異常所見が出ることが重要です。途中で異なった検査結果が出ると、事故との関係性を否定されることがあります。
弁護士への早期の依頼
交通事故によって脊髄損傷となった場合、後で説明するように、損害賠償金は多額になる可能性があります。後遺障害等級が9級を超えてくれば、賠償金が1000万円を超えるケースも珍しくありません。
そして、弁護士を入れるメリットは、賠償金が多額になるほど大きくなります。弁護士を介入させた場合の慰謝料の増額幅や、過失割合の変更の影響は、脊髄損傷の事例の場合、とても大きいです。
したがって、脊髄損傷の場合、弁護士を入れたとしても、費用倒れになることはあまりありません(そもそも脊髄損傷か否かが問題となる場合には違った考え方となります)。
弁護士費用特約があればもちろんですが、弁護士費用特約がなくても、弁護士費用については気にすることなく、早期に交通事故専門の弁護士に相談、依頼することをおすすめいたします。
脊髄損傷の場合に認定される可能性のある後遺障害等級とは?
脊髄損傷となった場合、残念ながら多くの場合、何らかの後遺障害が残り、就労に影響を与えることとなります。
脊髄損傷となった場合に自賠責保険で認定される可能性のある後遺障害等級には以下のものがあります。
| 脊髄損傷となった場合に該当し得る後遺障害等級 | |
| 別表1第1級1号 | 生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの |
| 別表1第2級1号 | 生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護をを要するもの |
| 別表2第3級3号 | 生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、労務に服することができないもの |
| 別表2第5級2号 | きわめて軽易な労務のほか服することができないもの |
| 別表2第7級4号 | 軽易な労務以外には服することができないもの |
| 別表2第9級10号 | 通常の労務に服することはできるが、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの |
| 別表2第12級13号 | 通常の労務に服することはできるが、多少の障害を残すもの |
このように、脊髄損傷となった場合の後遺障害等級は1級から12級まであり、幅広いです。ひとつ等級が変わるだけで1000万円以上の賠償金の変動があり得るため、後遺障害の申請手続きは慎重におこなうべきでしょう。
参考:異議申立て手続きによって9級から7級に等級変更があった解決事例
脊髄損傷になった方が得られる賠償項目とは?
脊髄損傷となった場合、通常のむち打ちや骨折とは異なり、介護の必要性が認められるケースがあり、将来にわたって介護が必要であることを前提にした賠償金を獲得できるケースがあります。
具体的には以下の項目が挙げられます。
①事故日から症状固定日までの損害項目
・治療費
・病院までの通院交通費
・入院雑費
・休業損害
・介護費用、近親者の付添費用
・傷害慰謝料
②症状固定以降、後遺障害認定を前提にした損害項目
・後遺障害慰謝料
・後遺障害逸失利益
・将来介護費用
・将来介護雑費
・車両改造費用
・家屋改造費用
これらの損害項目は、脊髄損傷の程度、残存した後遺障害の程度、症状などから相当性を判断します。脊髄損傷になったら全ての方が認められるわけではないことに注意が必要です。
しかし、保険会社の担当者は、できるだけ支払う賠償金を少なくするため、被害者が主張しない損害項目を入れずに示談をしようとするケースが後を絶ちません。
私が担当した案件(高次脳機能障害の事例)にも、本来介護費用が認められるべき案件であるにもかかわらず、介護費用の項目自体入っていない状態で示談しようとしていたケースがありました。
サリュ介入後に1000万円の提示から4200万円に賠償金を増額させた事例
事例に応じて、認められるべき損害項目があります。自分の事例でどこまでの損害を請求するべきかについては、専門的知識も必要になりますので、交通事故に特化した弁護士に相談することをおすすめします。
千葉県の裁判所の事例
千葉県市原市で発生した自動車とバイクの事故の事例(千葉地裁平成19年6月26日判決)
この事例は、被害者が脊椎損傷等の大けがを負い、重い後遺障害が残ったため、平均余命までに発生する介護費用を請求した事例でした。
裁判所は、「原告は、自力で起きあがること、自力で寝返りをうつことができず、屋内の平らな場所で車いすを動かす動作はできるが、それ以外はできない。食事は、自らできるが、排尿には介護を要する。原告には、突然強烈な痛みが起こることがあり、家族の介護は常に休まることがない。」との原告の主張に対し、「右上肢を真上に挙げたり上半身にひねりを加えると痛みがあるため、車イスへの移乗、寝返りは困難である。排便及び入浴は介助を要する。」と認定し、介護費用のみで7000万円以上の損害を認めました。
千葉県内で発生した自賠責1級1号の後遺障害の事例(千葉地裁佐倉支部平成18年11月29日判決)
事故当時18歳の高校生の原告が頸髄損傷となり、自賠責で1級1号の後遺障害の認定を受けた事例について、千葉地裁佐倉支部は、以下の損害を認定しました。
入院雑費:28万3500円
付添看護料:122万8500円
逸失利益:9952万9955円
将来付添介護料:1億0747万7457円
住宅改造費:1030万2100円
車椅子費用:285万6386円
車両改造費:289万8071円
介護ベッド費用:320万8614円
介護リフト費用:453万3966円
将来雑費:519万5829円
傷害慰謝料300万円
後遺障害慰謝料2800万円
被害者の損害合計2億6851万4378円
この裁判では、被害者が重度の後遺障害を負ったため、多額の損害が認定されています。
なお、この事例では被害者の母に対しても、介護の負担を強いられることを理由に250万円の慰謝料が認定されています。
自分の損害賠償額がどれくらいになりそうなのか、気になる方は、交通事故に特化した弁護士に相談することをおすすめいたします。
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